AI・ロボット時代に“自ら未来を切り拓く子供”を育てる真の教育とは?

5月31日東京都港区にて、ミスルトウ株式会社(以下ミスルトウ)により「21 世紀型の教育を推進するキーパーソンが本音で語るトークイベント」が開催されました。

 パネルディスカッションの様子:パネリスト右からベンネルソン氏、渡邊奈々氏、日野田直彦氏、孫泰蔵氏

パネルディスカッションの様子:パネリスト右からベンネルソン氏、渡邊奈々氏、日野田直彦氏、孫泰蔵氏

第1部では、ミスルトウCEOの孫泰蔵氏とミネルバ大学CEOのベン・ネルソン氏より、両者で締結したパートナーシップの概要などについて説明が行われ、第2部では、この2者に加え、多様な立場から21世紀型の教育を推進する方々をパネリストに迎え、教育関係者や教育に関心の高い保護者の方々を対象に、自ら自分の未来を切り拓く子供を育てるための教育についてパネルディスカッションにて熱い議論が交わされました。

 Mistletoe (ミスルトウ)のミッションステートメント

Mistletoe (ミスルトウ)のミッションステートメント

 Minerva Schools at KGI ウェブサイト

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本日は、この第二部のパネルディスカッション内容を紹介します。子供達の未来のために立ち上がっているパネリストの皆様の闊達な議論、お楽しみください!

ー登壇者 (あいうえお順)—

・孫泰蔵氏(Mistletoe代表取締役社長 兼CEO)

・ベン・ネルソン氏(Minerva Project創立者 兼 CEO)

・日野田直彦氏 (大阪府立箕面高等学校 校長)

・渡邊奈々氏(一般社団法人アショカ・ジャパン創立者 兼 代表理事)

・モデレーター:竹村詠美 (Future Edu Tokyo代表)

 

■なぜ今教育現場で、「ソフトスキル」が求められるのか

竹村:自己紹介ならびに、現在行っている活動についてお聞かせ下さい。

日野田:最年少民間人校長として、大阪の府立高校の校長をしております。今日は、本校から日本の一条校としては初めてミネルバ大学に輩出したというご縁があって参りました。本校は偏差値では50そこそこですが、ミネルバ大学以外にも、ウェズリアン大学、メルボルン大学といったような名門校へも卒業生を送り出しています。「普通の学校からでも海外に出ていけるんだ!」という事例の代表としてもお話できればと思います。

渡邊:私は、「アショカ」(※編集注:公益のためのイノヴェーションに取り組む人々の集団)の日本オフィス、アショカ・ジャパンを設立し代表理事をしております。新しい働き方/生き方の選択肢としての社会起業に出会ったのは、今から18年前です。アショカは、38年前から社会の問題を引き起こしている仕組み自体を変革する個人を、アショカフェローとして認証しネットワークをつくっています。そして、この取り組みを始めて30年ほど経ってから、変革を起こしている人のそもそもの情熱の元火を辿ると、それは「エンパシーEmpathy」であるという気付きがアショカ内で生まれました。

エンパシーとは、自分の心を他者の心に(想像力で)重ねる能力のことですが、他の能力と同様、個人差があります。ですので、教育では努力して能力を引き出す意識的な努力“Cognitive Empathy” を、取り入れることを重要視しています。

Cognitive empathy を21世紀型リーダーに欠かせぬの能力と捉え、実際にエンパシーの生まれやすい環境作りをしている「チェンジメーカースクール」と名付けた小中高校のネットワークづくりを5年前から始めています。現在、28カ国280校のネットワークがあります。日本では、今年からリサーチを始めました。

 アショカ チェンジメーカー スクール

アショカ チェンジメーカー スクール

竹村:続いてお聞きしたいのは、“ソフトスキル”についてです。2020年の学習指導要領の改訂という背景もあり、世の中では「主体的な学び」「クリティカルシンキング」「コラボレーション」といった様々なキーワードで形容されるような、教科だけではないソフトスキルの向上が求められるようになってきました。なぜ今教育界において、このようなソフトスキルが求められているのでしょうか?

ベン:今日のコンテクストにおいて、政治家やリーダーにどういった資質が求められているかを考え直してみれば良いと思います。例えば、リンカーン大統領を思い浮かべて下さい。戦略的な思考と幅広い視野を持ち、南北戦争という歴史的潮目において、分断されたアメリカを再度一つにまとめる偉業を成し遂げました。その功績により偉大な大統領として記憶されている反面、実際には、南北戦争時に間違った判断で多くの兵士を死なせてしまったという事実もあります。

今よりもはるかに情報スピードが遅かった1860年代当時と比べ、今日のネットワーク社会では、リーダーの1つの判断が瞬時に重大なインパクトをもたらします。また世論においても、リーダーの間違った判断に対して許容度が低くなっていると言わざるを得ません。こうした状況下で、1人の教師が生徒に知識を教え込むだけで正しい意思決定を導くことができるのか、という疑問が湧いてきます。

複雑に絡みあった課題を解決しなければならないような局面では、ソフトスキルに限らず、例えば「統計分析学」のようなハードスキルも身につけている必要があります。しかしながら、現代のリーダーの多くは、そうした教育を受けてきていないのが実情です。

孫:私は 、起業家として長年にわたってIT分野の変化をみてきましたが、私の想像を超えるよりも遥かに速いスピードで、AI(※編集注:Artificial Intelligenceの略称。日本語では人工知能)やロボット技術が発達していると感じます。テクノロジーが緩やかに発達していくのであれば、人々もそれに適応して徐々に新しい仕事にシフトしていくことができますが、あまりにも急激なスピードで技術革新が起こると、AIに取って代わられる仕事が瞬時に増大し、経済学でいうところの「摩擦的失業」が起こると想定されます。私はそれに危機感を抱いており、速やかに全ての人々が「人間にしかできないクリエイティブな仕事」にシフトできるような教育にアップデートしなければ、この状況を打開できないと考えています。

しかしながら、現在の学力テストは、正しい知識を正しくアウトプットすることが判断基準となっています。これだけでは、全く意味がないと思います。自分で課題を設定して、行動していかなければいけない時代になっていると思います。

■大人になっても“幼稚園児のように”学んで欲しい

竹村:グローバルレベルで高度にネットワーク化された社会で、意識的にクリエイティブに動ける能力を磨いていかないと、つける仕事がAIにとって変わられる危険性が大きくなりそうですね。このような急激な時代の変化への対応を求められている一方で、日本の学校教育も学生逹もずいぶんとのんびりしているように感じます。日野田先生はこういった状況下で、子供たちはどのようなスキルを学んでいかなければならないとお考えですか?

日野田:危機的な状況において、「クリエイティブにならなあかん。」と言われてもモチベーション下がりますよね(笑)。逆だと思いますよ。ワクワクしたら良いと思います。私は今がチャンスだと考えています。パラダイムを変えるべきで、気づいて行動した人が勝てますからね。

僕は、先生にも生徒にも「チャレンジしてください。」と言っています。松下幸之助氏の「ほなやってみなはれ。」といった言葉にも代表されるように、「トライアル」が大事だと思っているからです。だから我が校の生徒には、「幼稚園児のように学びなさい。」と伝えています。幼稚園児というのはタチが悪いんですね(笑)。なぜかと言うと、いつまでも諦めないから。でも、それってすごく大切なことです。幼稚園児のように楽しみながら「諦めない」大人が出てきたら社会全体が随分と変わると思いますよ。優秀なMITの学生でさえ、「僕たちは天才じゃない。あきらめない。最後まで。」と言っています。

我が校の生徒には一つの問いに対して、1時間で1つの答えを出すのではなく、30秒でとりあえず回答しなさい、と言っています。そうすれば2時間で120問できます。スピードを上げれば全問正解にはならないかもしれません。でも119回の失敗から学んだ「1つの正解を導き出すプロセス」の中で、生徒たちは自己に対する認識を上げます。そういったことを奨励しているんです。だからいつも生徒たちには「どんどん失敗しろ!」と伝えています。「幼稚園児の諦めない気持ち」を忘れなければ、社会人になっても失敗を糧に対応できるようになります。そうすれば学校の成績も上がりますし、英語力も伸びます。今は失敗が許されない社会になってきていますが、失敗を繰り返した結果できなかったことができるようになるんです。世の中がもっと失敗に対して寛容になればいいなと思っています。

■通園後は一斉に歌う慣習よりも、「内省の時間」に

竹村:生徒も先生も捉え方やマインドセット次第で変わっていく。大変興味深いお話ですね。これは私の印象なのですが、同じ子どもでも欧米ではより「自信のある」子どもが多いように感じます。そこで渡邊さんにお伺いしたいのですが、欧米ではどんな力を蓄えている子が多いと考えていますか? 先ほど、“Empathy”(共感力)というスキルに言及されていらしたと思いますが、もしそれ以外にあれば教えてください。

渡邊: 教育のディシブリン(規律、訓練)を言葉で形容するとすれば、”Empathy”と、”Change —making Skills”(変革を起こせる能力)の二つですね。簡単なように聞こえますが、大変複雑な能力です。” Change—making Skills”というのは、まず内省的 (Self Reflective) であることが出発点です。自分の心の奥の声を知るということです。日本の幼稚園では、みんなで元気に声を上げたり、一斉に歌ったりしますが、あれは止めたほうが良いですね。欧米の心ある幼稚園では、思い思いに登園して入室したら、一人一人が自由に静かに過ごします。そうやって内省する時間を見出しているんです。内省していると自分の心だけでなく人の心も観察するようになります。その結果、コミュニケーションの土台が生まれます。

北米に79校ある「チェンジメーカースクール」のベストプラクティス校の一つとして、ブルックリンのBrooklyn New Schoolという小学校の例が挙げられます。同校には、人種的 、経済的、障害といった「弱者」が3分の1います。何かしらの弱者が共存しているのが、現実の社会です。隣に座っている子が学習障害を持っているとしたら手を差しのべている、という環境があるわけです。先生が働きかけるのではなく、子どもから自発的にそのような感情や行動が出てくる環境を整備するのです。また「問題児」についての対応についても聞いてみました。まずこの学校では、大人2〜3人に対して子供1人という比率で学校運営をしているそうです。「大人」は必ずしも教員とは限らず、学生のボランティアやコミュニティの住人といった人たちも含みます。そういった大人と問題児が毎週集まって話すだけで自然と問題が解決する環境があるようです。「魔法の薬」といったものはありません。

■日本でダイバーシティを高めるには

竹村:環境を整えることの大切さですね。単一の考えを持った子供だけではなく、多様な価値観を持った子供が集まるような環境を作る。では日本という単一民族国家において、どうやったらよりダイバーシティを推進し、”Empathy(共感)”を高められる環境を整えていけるかお伺いできればと思います。いかがでしょうか。

日野田:共感力を高めるにはコミュニケーションが必須ですが、日本人は非言語的です。でも、声に出さないからと言って個々人の考えていることが同じかと言われたらそういうわけではありません。自分は何を考え、思っているか、単にそれを言語化しないだけなんです。学校でも「話すこと」を奨励してもなかなか生徒がそうしないので、シリコンバレー式に我が校でもホワイトボードを使ってみることにしました。すると、ホワイトボードだったら表現ができたんですね。スケッチブックを渡して「好きなことを書いてみて」 と言っても、書き出したら止まりません。つまり、日本人にあったマインドセットやアウトプットの方法論さえ整えれば言語化できる、ということです。

竹村:なるほど、能力は引き出し方次第ということですね。

孫:僕は福岡と佐賀の学校に通っていました。正直、学校は普通すぎてつまらなかった。だから両親が経営していたお店に出入りして、従業員のお兄ちゃんお姉ちゃんに可愛がってもらっていたんです。ダイバーシティとは、こういう「普段の生活では知り合えない人たちと出会い、つながる」ことだと思うんですよ。先進国は、同じ部屋に同じ世代の子供を閉じ込めて過ごす場合が多く、画一的になりがちです。でも、学校や塾に頼ることなく、私たちが多様性に飛んだクリエイティブな環境を作り出してみることだってできると思うんです。産業化された社会なので、学校=勉強するだけのところ、会社=仕事するだけの場所、レストラン=食べるだけの場所という形で、いろいろな機能が分化していますが、もっとミングル(混ぜる)すればいいんではないかと。大人である私たちがリデザインすれば良いんじゃないかと、そういう風に思います。

■教育のイノベーターが考える現在の課題

竹村:皆さまのお話を伺っていると、課題意識が明確で、着実に変革を進められているので、日本の未来、世界の未来は明るいなという印象を持ちます。とはいえまだまだ課題はあるのかなとも思います。今、教育の改革を担っている皆さま方の中で、どんな点が課題として挙げられますか?

日野田:多々あります。なによりハード面、教育投資ですね。例えば、生徒から言われて気づいたのですが、学校のすぐそばにある特別養護老人ホームは新築なのに、築55年の学校は20年先までと言われます。社会保障費が30兆円に対して、教育費は5兆円です。未来のある子どもたちへの投資をしない国に未来はあるのでしょうか? そもそも論としてハードへの投資が少なすぎます。我が校の年間経費は約2,000万円しかありません。光熱費が1,500万円。建物が古いので補修費で約300万円はかかります。教材費は、1教科10万円しかありません。校長の手元に残るお金はたったの数万円です。それで教育改革しろというのは悪い冗談かと思いますね。(笑)

竹村:ベンさんは、21世紀型教育を推進するにあたってアメリカにはどんな課題があると感じていますか?

ベン:アメリカの強みでもあり弱みでもあるのが、国が主導して決めるでのはなく、分散型で各州に意思決定が委ねられていることです。日本の中央集権的なシステムとは対極にあります。また連邦政府のみならず、州政府においても規制が緩く、何を教えるべきかといった明確な指針がありません。市民の手に委ねられているような状況です。これは、仮に5万人の自治体の中で市民がディスカッションしたとしても、これといった軸がないものが生まれてしまうことを意味します。実際のところ、初等教育や中等教育などにおいてはそういうことが起きています。非常に危機的な状況です。

イギリスのシステムに、「誇大広告」の規制があります。もし広告で表現した内容に見合わない価値を消費者に提供した場合には、罰せられるといった内容です。それになぞらえて、教育においても同様のことをやったら良いと思います。例えば、スタンフォード大学が「クリティカルシンキングを教えている」と言いながら、学生が「クリティカルシンキングを身につけていない」というのであれば、極端な話、学長が逮捕されるとかですね(笑)。

■教育改革を進めるために考えていること、したいこと

竹村:透明性を上げ、データの裏付けを以って教育効果を高めていく。また、ハードやソフトに投資すべきということですね。さて、教育のイノベーターの皆さまが今後どういった形で教育改革を進めていきたいか、もしくはメッセージがありましたら一言ずついただけますか?

孫:教育はみんなに関係があるので、教育専門機関に任せておけば良いということではないと思うんですよね。次の時代を生きる子供たちのためにも、今私たちが本気で学びを考えなければいけないと考えています。家族や友人など身近なところから始めて、それをサポートすべく、環境やシステムを創っていく。そんな風に社会全体で子供たちを育てていけたらいいですね。

日野田:来年で任期が終わるので、新しいタイプの学校を創ってほしい、という声をいくつかいただいております。そのため、学校をつくろうかなと思っています。様々な組織や団体を越えて、緩やかなアライアンスを組みながらやっていきたいです。大人がワクワクして緩やかなアライアンスを作っていくという姿を見せることで子供たちは学ぶと思います。新しいパラダイムやモデルを教育界に提供できればと考えています。

渡邊:私は、メリー・ゴードン氏(※編集注:カナダ出身の教育アントレプレナー。心の教育の第一人者)が開発した、“Roots of Empathy”というカナダのトロント市のプログラムを入れたいと考えています。これは、「市」「区」といった行政単位で小学校に導入できるので、たとえば「千代田区」など自治体で導入してみる、とかですね。このプログラムでは、子どもたちの前に生後三ヶ月の赤ちゃんを置き、観察するというようなことをやります。赤ちゃんを置くことで、子どもたちは普段使わない脳を使うようになります。そして一人ひとりの心理分析をしていきます。子どもたちに、「君が最後に泣いたのはいつ?」「その時の気持ちは?」といったように気持ちを言葉で表現させるのです。気持ちを表現する言葉を学習すると、自ずと相手の気持ちを理解できる子どもになり、結果的にイジメ、仲間外れが90%減るということが起こるという調査結果がBritish Columbia大学から発表されています。

ベン:なによりも、教育は大事なんだということを今一度お伝えしたいと思います。これからは、AI にできることが加速度的に増えています。世界の良い教育機関で学位を取ること、テストで良い点数を取れたことを自慢するのではなく、どういうことを学び、発見したのかということが大事なので、そういったものを通じて本当の教育の価値が見えてくるのだと思います。

著者プロフィール:

トマ

消費財、メディア&エンターテイメントのマーケティングを経てシリコンバレー企業に勤務。オルタナティブ教育や教育改革に関して独自の視点でブログを執筆。TEDxKidsコアメンバー。