High Tech High 訪問記第3話:高等学校編

アメリカの新しい教育トレンドを知りたい!!という思いを抱き、我々 FutureEdu Tokyoの自主上映会で上映した “Most Likely to Succeed” の舞台でもある、High Tech High (HTH) を訪問しました。第3話は、映画の舞台となった元祖High Tech Highの見学レポートです。

HTH は、現在は幼稚園から高校まで13校と教育大学院を有しています。元祖HTHは5校あるHTHの高等学校の一つで2000年に開校しました。私たちが訪問をしたときはサン・ディエゴ空港すぐそばにHTH高校と、High Tech High International高校、High Tech High Media Arts高校の3校の校舎がが中庭を囲むようにして建っていました。各校がオープンした当初はそれぞれ校名に由来する特徴があったそうですが現在はどの学校もHTHと同様のプログラムを提供しているそうです。同じ場所にありながら敢えて別々の学校にしているのは、マンモス校にせず、小さな学校できめ細かく生徒をみるためとのことでした。どの学校もプロジェクト・ラーニング・メソッドを採用している公立のチャータースクール(特別認可学校)です。公立校なので授業料は無料で、進学を希望する生徒は、住民の地域属性を反映した形で抽選となります。一度入学すると高校まで内部進学できます。

HTHへの訪問は当初は予定されていませんでしたが"Most Likely to Succeed"を日本で上映するにあたり、配給元の製作会社に米国で誰か関係者に会えないかと問い合わせをしたらMLTSの主人公の一人であるScott Swaaley先生をご紹介いただけました。アポが取れたのは前日の夜! 小学校と中学校の訪問が予定より長引いて、約束の時間に遅れてしまったにも関わらず快く学内を見学させていただきました。HTHを訪問したときは、まだ映画を観ていなかったので先入観なく学校を見ることが出来ました。

米国の公立高校のイメージからすると平屋の校舎は外から見ると小さなイメージですが、一歩中に入ると天井が高く、生徒たちの作品があちこちに飾ってあり、作品製作中の生徒たちが出入りしていて、文化祭準備中の美大のような、カオスな活気がありました。美術館で見る現代アートを難解で近寄り難いと感じる人は多いのではないでしょうか。アートで埋め尽くされているHTHの校内は、現代アートが苦手な人ですら興味を持って作品を一つ一つ見て回りたくなるような、そして自分も何か創ってみたくなるような、そこに居る人の創作意欲を刺激せずにはいられない環境です。西海岸の有名IT企業はクリエイティブなオフィス・デザインを大切にしていますが、箱モノは大事だと強く思いました。

HTHの設計と建設の監督は、HTHのデザイン・ディレクターであり設計士でもあるDavid Stephen先生が行い、2001年に優れた校舎として表彰されたこともあるそうです。日本の公共建築は取りあえず予算を取れるだけ取りましたというメタボな建物が多くあるように感じられますが、HTHの校舎はなるべく低予算でかつ良い環境デザインを目指したという思いが感じられるleanで知的な造りでした。

Scott先生と昼食を食べてから教室へ戻ると、学外の生徒が行くことを禁止されているレストランで食事をしていた生徒が注意されていました。アメリカの高校生は日本の学生と比べるとずっと自由で大人びて見えますが、監視監督が必要なのは日本の高校生と変わらないと知ってちょっと安心しました。

ミドル・スクールの生徒の作品はいろいろなメディアを使った様々な表現手法を試している段階で個性的とは言えませんでしたが、高校生たちの作品からは既存にない新しいものを作り出そうとするエネルギーが感じられました。

学んだことをテストして理解度を確認する学習方法だと、満点よりも先がありません。試験範囲を予測して、予測範囲内での完璧を目指すことになります。HTHの生徒たちは学んだことを応用して周囲をあっと驚かすようなアイデア、今までになかったオリジナルな作品を作り出していくという作業に取り組んでいます。HTHには一般の高校では大学進学準備のためにともすればなおざりになってしまう個性的で創造的な活動が最優先事項と捉えられ、支援される環境があります。誰かが正解を持っている問題をひたすらに解く高校生活と、自分独自の解を求めて創作に没頭する高校生活。その後の長い人生に若い日の経験はどのように影響してくるのでしょうか。誰もがHTHのような高校へ進学できるわけではありませんが、自分の意思で意識や行動、習慣を変えられる高校生には様々な学びの形を知り、知性に対して貪欲になってほしいと願います。 (by Marie)

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