ミネルバ大学創立者 ベン・ネルソン氏インタビュー 〜大学本来の学びを取り戻し、世界7都市に滞在しながら真のリーダーを育成する 〜 創設に秘めた熱い思いと独自のカリキュラムとは?

2017年からは初の日本人学生も入学し始めたミネルバ大学は、2014年に開校したばかりだが、新設校ながら初年度には98カ国1万1000人以上の応募があり、その合格率は2.8%という狭き門だ。世界7都市のキャンパスを移動しながら学ぶ全寮制4年制大学であり、脳科学に基づいた、100%アクティブラーニングを実践する今最も新しい教育を行っている学校、と全世界から注目されている。その創立者ベン・ネルソン氏に、日本で初めてインタビューすることができた。

 

ミネルバ大学 創立者兼CEO ベン・ネルソン氏

ミネルバ大学 創立者兼CEO ベン・ネルソン氏

【創業の熱い思い】

  • アメリカ名門校の問題点

創立者のベン・ネルソン氏は写真共有サイト「Snapfish」の前代表取締役(のちにHPに売却)であり、アイビーリーグの一つであるペンシルバニア大学ウォートンスクールを卒業している。卒業生には、投資家のウォーレン・バフェット氏やTeslaのイーロン・マスク氏、大統領候補のドナルド・トランプ氏など、政財界の著名人が多い。

ベン氏はまず、アメリカの教育の歴史がどのように変遷し現在の形になったか、またその問題点を語ってくれた。

「私が大学時代に受けた『教育の歴史』という授業は多くの気づきを与えてくれました。大学は、そもそも投資銀行員などの人材を数多く輩出するために設立されたのではありませんでした。その多くは職業訓練校としてその歴史が始まり、例えばハーバード大学はニューイングランド地方の牧師育成学校として興っています。

その後、アメリカ建国の父であるベンジャミン・フランクリンやトーマス・ジェファーソンがペンシルバニア大学やバージニア大学を創設する頃には、アメリカでは理想化されたローマ時代の共和主義が新しい時代にふさわしい国家モデルだと考えられました。

教育においてはこのモデルを理想化し、ローマ時代の人間が考えた広義の意味でのアート、つまり音楽や美術、数学や歴史などの実用的な知識をLiberal Arts(リベラルアーツ)として教えることで、幅広い分野で深く探求する力をつけ、他者のために役立つ意思決定を行い、社会を引っ張るリーダーが育つと考えられたのです。これが、大学の元来の在り方だったのです。」

ただ彼が在籍していたペンシルバニア大学は、その理想とはかけ離れたものになっていたとベン氏は言う。

「我が校のみならず全米をみても、真のリベラルアーツを提供している大学は見当たりませんでした。次第に大学は、真に知的な人間を育てる方向から、ただ知識を与える方向に退化してしまったのです。私は在学中にあらゆる方向で改革を提案してみましたが、何も変わらず諦める結果となりました。」

「上記のような大学の退化が進むと同時に、様々な分野でのリーダーシップの機能停止が起こりました。そして学生のIQ自体は年々向上しているのに、良い教育を受けられていないという課題が見えてきたのです。ハーバード大学やイエール大学など、全米でもトップの大学を出ていても、社会を良くするための意思決定のタイミングになると、なかなか有効に機能しない。製薬業界に例をとると、80年代にはバイオ医学の知識は今と比べ乏しかったにも関わらず発明が多くありましたが、過去10年でヒットした新薬は規制の理由などもあるもののほんの数件です。」

「更に現在のアイビーリーグでは、超富裕層の子弟が入りやすく尊重されていると感じたのです。実際には1%の富裕層からの子弟が全体全体の5割になることもあるのです。結局限られた人々が身内でのパワーゲームに明け暮れ、優秀な学生たちが人類の幸せを追求する真のエリートたりえているのか?と疑問を抱くようになりました。」

アメリカ東部の一流大学はある種の学歴社会の歴史の上に成り立っている。留学生は、伝統的なインナーサークルには入れないし、学校生活で孤立する事例もあるそうだ。もちろん学費も非常に高い。

 これらの様々な教育に関する問題点を解決するために、ベン氏はミネルバ大学の創立を志したという。

  • どのようにして教育を変えるか

「アメリカの大学の経営側も悪気があるわけではないのでしょうが、卒業生子弟が優先されるなど旧態然とした現在の体制では入学選考と大学経営の利害が一致する仕組みが確立されているため、なかなか劇的に変わることは難しいでしょう。そこにミネルバのような新しい価値観の新参校が出現することで、最上位校も何らかの変革を考えるようになるのではと。結果的に大学業界全体の変革のスピードが早まるはずだと強く信じています。」とベン氏は熱弁する。

【ミネルバ大学の「新しさ」】

  • オンライン=イージー、ではない

ミネルバ大学では、オンライン授業を行っている。ここで勘違いして欲しくないのは、不特定多数に一方通行の講義をネットで遠隔配信するだけのオンライン大学ではない、ということだ。ではなぜキャンパスを有し生徒たちが顔を合わせられる環境にもかかわらずオンラインの形式をとるのだろうか。

「私たちは、オンラインの方が質の高い授業ができると思っています。少人数のセミナー式授業で、講師のモニターには一人一人の表情、作業の手元がはっきり映り、やる気や理解度が手に取るようにわかります。また個人の発言時間を自動的に計測でき発言量のバランスも見ながら講師がクラス進行をでき、音声は自動筆記で即時にテキスト化されるのでフィードバックが早く確実になります。」

つまり、効率よく学びを深められるメリットがあるのでオンライン講義システムを採用し、授業を行っているというわけだ。けして人とのつながりやグループワークを軽視しているわけではない。

「全寮制を採用しているためグループプロジェクトやクラブ活動は生徒たちが仲間とともに行えるようになっています。」

大掛かりな施設や講堂が不要になるため、コストを抑えることもできる。生活費を含めた学費が年約3万ドルで、これはアイビーリーグのおよそ4分の1だ。

  • 7つの都市をめぐる意味

ミネルバ大学のもう一つの大きな特徴である、「7つの都市のキャンパスを移動する全寮制」とはどのような狙いがあるのだろうか。

ミネルバ大学では、一つの建物に学生全員が住んで共同生活を送っている。1年次はサンフランシスコ。そこでは、日本の大学で例えると教養課程のような共通の授業を受ける。

「この時点では学生たちの専攻は決めません。今までの経験に囚われず自分の専攻をじっくりと選んで欲しいからです。そのためにまず物事の見方の120パターンの癖を矯正し、4つの学びの基本コンセプトを学びます。」

  • 分析   統計手法、論理、意思決定判断、シミュレーションなど
  • 複雑系  互いに関係しあう要因を観察する
  • 実証分析 仮説を立て、調査・実証してみる
  • 修辞学  多様なコミュニケーション方法を探る

    出典元: http://ミネルバ大学.com/4つのコア技能/

「これらの過程を経て自分の専攻は2年次に決定します。2年、3年次はブエノスアイレス、ベルリン、バンガロー、ソウルに4ヶ月ずつ滞在。4年次にはイスタンブールとロンドンに滞在します。それぞれの都市には個性とストーリーがあります。大都市だったり、衰退と趨勢を繰り返した街だったり、今変革の真っ只中の街であったり……。基礎学習を経て専攻を選び更に深まっていく年次ごとの学びに合せて、どの都市でどの年次を迎えるのが一番ドラマティックかというストーリーも大学側はきちんと考えています。」

滞在する各都市では、その地の企業や団体でのプロジェクト学習、インターンなどが行われ、前述の4つの技能を深く身につける。

  • 生徒の特徴と進路

2014年に入学した一期生は2019年に卒業予定。起業を志す学生も多いが、多くの企業からインターシップや雇用についての問い合わせも殺到しているという。

【どうやったら入学できる?】

  • キャデラックとテスラなら、後者を好む人

ではどんなタイプの学生がミネルバ大学に合うのだろうか?

「車で例えると……キャデラックとテスラどっちか?という選択肢があったらテスラを選ぶような人物がミネルバ大学に合っていると思います。どちらが優れているかということではなく、革新性を好むセンスのある人ですね。」とベン氏。

「体系的な学びを極め、勤勉でありながらも、自由な考え方のできる人に選んでもらいたい。ミネルバ大学は国籍を問わず全世界から優秀なリーダーを育成したいと思っています。」

実際に全生徒のうち約80%が米国籍外の生徒。出身国は約40カ国以上に及ぶ多様性だ。創立時の思いは形になりつつある。

  • 選考方法

ここまでベン氏の話を聞いて、ミネルバ大学に興味を持たれた方も多いだろう。気になるのはどのように入学者を選ぶのか?だ。前述したように、初年度の合格率は2.8%。最新の入試の合格率はなんと1.9%! 相当の難関だ。

選考過程は、まず手続き上の基本書類を提出。のちIQテストのような独自のオンライン試験、課外活動の提出、成績表の提出(英語)、さらにオンライン面接が実施される。

特徴的なのはオンライン面接だ。口頭の応答だけでなく、エッセーの提出が必要で、その場で書く過程を面接官がモニタリングする。ノートや辞書は持ち込み不可で、素の自身の記述能力が問われることになる。日本でも少数限定の説明会が行われているので、TwitterFacebookで情報をチェックしてみては。

関連リンク:

ミネルバ大学  https://www.minerva.kgi.edu

ミネルバ大学 Twitter(日本語)https://twitter.com/Minerva_Japan

ミネルバ大学 Facebook(日本語)https://www.facebook.com/groups/148426728842084/ 

Written by Keiko

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