Most Likely To Succeed 10/24 Screening Report | 第三回上映会 ミネルバ大学 座談会レポート

2016年10月24日、西麻布にある海外大学進学塾のTokyo AcademicsにてMost Likely To Succeed の第三回目となる上映会が開催され、上映後に、以前FutureEdu Tokyoでもご紹介したミネルバ大学創設者のBen Nelson氏を囲んだ座談会がありました。

Ben Nelson氏への質疑応答を通じて、既存の大学とミネルバ大学が目指す学びの対比が浮かび上がりました。大学を卒業して学び得るのは専門知識か、リーダーにとって必要な資質かということを考えさせられる座談会となりました。

「社会を変えていくリーダーには何が必要ですか?」というベンの問いかけに、会場からは共感力、創造力、課題を見つける力などリーダーとしての素質が必要だとする声が相次ぎました。


「この会場にいる誰も物理学の専門知識や、経済学のような学問が必要とは答えませんね。大学で教えてくれる知識は今やスマホで簡単にアクセスできます。でも、今皆さんが答えたリーダーに必要な課題解決能力や独創性などの資質を教えるカリキュラムがある大学はどこにもありません。」

「スタンフォード大学の教授に、スタンフォードでは批判的思考力をどのように教えているか質問をしたら"コンピュータ・サイエンスが必修になっている"と言われたので"それって批判的思考力?"と聞いたらシーンとなってしまい、"デザインも教えているよ"と言うので、"それは創造力じゃない?"などと言い合っているうちに、批判的思考力を養うことを教えるのは難しいという結論になりました。」

「批判的思考力に限らず、独創性、課題の発見などどれも、既存のカリキュラムでは教えるのが難しいことばかりです。脳は偏見で一杯で、抽象的なことや概念的なことを文脈で理解するのが苦手だからです。薬を飲むときは一人一人への体質や副作用を気にする人も、新しい法律がある人に合うか合わないか、どんな影響を及ぼすのかには無頓着だったりします。しかし、教育の目的は"far transfer (学習の移転)"を可能にすることです。学習移転とは、以前に学んだことが後々いろいろな場面で役に立つことをいいます。ミネルバの授業の特徴は、ある文脈で学んだことをほかの文脈にも適応できるような教授法やカリキュラムが組まれていることです。」

どの大学も、理想とする卒業生の人物像があります。既存の大学がそうした理想を掲げながら学問を教え、人間性は自然とついてくるだろうと期待するのに対し、ミネルバ大学は一貫して理想とする人物像により近づくためのスキルの習得を目指し、専門性の獲得もスキルの一部としています。この理念は教授の採用、カリキュラムの設計、合格者の選別にまで徹底されています。

通常の大学では、一・二年次に一般教養を学び次第に専門科目を学びますが、ミネルバ大学は一年次は思考力に重点を置いた授業を行います。毎回の授業は、問題解決のためのクリティカル・シンキングや、クリエイティブ・シンキング、対人技能を伸ばすように組まれています。二年次になると世界各地のキャンパスへ移動して、様々な課題を与えられ一年次に学んだ思考力を活用していきます。若い学生たちは新しい考え方を、新しい世界に触れて、新たな興味の分野を見つけていきます。そうした上で三年次、四年次と専門分野を掘り下げていくようになっています。

学生が自分の興味分野を見つけていく過程を、カリキュラムに組み込んでいるところが、入学時点である程度学部が決まっている通常の大学と異なります。通常の大学が知識の伝達を重視しているとしたら、ミネルバ大学は「人づくり」にフォーカスしたカリキュラムと言えます。このためミネルバ大学では、教授の採用にあたっても、ある分野の権威よりも、学際的で柔軟な思考を持つ人を敢えて採用しています。

ミネルバ大学はまだ卒業生を出していません。ミネルバ大学が求める学びにたどり着くために、教育カリキュラムにおいても大胆な試行錯誤が繰り広げられているそうです。

合格率1.9%という狭き門を通過するには学校の成績、活動実績、ミネルバ独自のエッセイ・テストと面接からなる入試を行っています。学力不振者は退学させ、他の人にチャンスを与える方針なので、そうした事態にならないようまず学業でふるいにかけるそうです。成績重視は一番良い方法ではないが、最後までミネルバ大学のカリキュラムをやり抜く力があるキラリと光る原石を成績不振者の中から見つけることは大変難しいということでした。ある分野に突出した学生を見つけ面接をしたけれど「やりたいことがあるからすべての授業には出られない」と言うので不合格にしたとのこと。新設校ゆえ、早く実績を作らねばならないという事情もあるのかもしれません。

Ben Nelson氏との座談会は、映画Most Likely to Succeedの中でも触れられている「新しい教育への期待と不安」が入り混じった白熱したものでした。

教育のフロンティアが広がる中、保護者にはクリティカル・シンキングによる意思決定を迫られています。

 

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(marie)