世界最高峰の幼児教育の一つと言われる、レッジョ・アプローチとは?

「レッジョ・アプローチ」という言葉を聞いたことがありますか?

メリーアン・バレンタイン先生

メリーアン・バレンタイン先生

日本ではまだ知る人ぞ知る「レッジョ・アプローチ」は、1991年にアメリカのニューズウィークに、世界最高峰の幼児教育の一つであると取り上げられる等、世界中から注目されている教育アプローチです。現在、レッジョ・アプローチは世界中の多くの幼児教育の現場にて取り入れられており、米国の名だたる大企業の社内プリスクールでも導入されているそうです。

先日、東京品川区にあるインターナショナルプリスクール、「東京チルドレンズガーデン」にて、このイタリア発祥のレッジョ・アプローチについてのワークショップが開催され参加してきました。当日はイタリアのモデナ県にある、インターナショナルスクールを始め7校(スイスも含む)でレッジョ・アドバイザーを務める、レッジョ・エミリア市在住20年のメリーアン・バレンタイン先生が講師として本場のレッジョ・アプローチについてレクチャーしてくださいました。

レッジョ・アプローチについては、教職資格もなく、実際にアプローチを取り入れている園も限られているため、中々体系的に知る機会が日本ではまだ少なく、大変貴重なワークショップとなりました。本日は、ワークショップから学んだ内容をご紹介したいと思います。

子供達が普段活動をする場所でのセミナーは、ゆったりした雰囲気

子供達が普段活動をする場所でのセミナーは、ゆったりした雰囲気

「レッジョ・アプローチ」とは?

まず、レッジョ・アプローチについて、あまりご存じない方が多いかと思いますので、東京チルドレンズガーデンの共同創業者、伊原尚郎さん、西ケ谷アンさんに、レッジョ・アプローチを簡潔にご説明いただきました。

東京チルドレンズガーデン共同創設者で園長の西ケ谷アン先生

東京チルドレンズガーデン共同創設者で園長の西ケ谷アン先生

東京チルドレンズガーデン 共同創設者でディレクターの伊原尚郎さん

東京チルドレンズガーデン 共同創設者でディレクターの伊原尚郎さん

「レッジョ・アプローチとは、世界的に注目されている共同プロジェクトなどを取り入れ、自立性・創造性・問題解決能力などを育むことに高い評価を受けている教育アプローチです。Social Constructionism / Constructivism(社会構築主義)*という考え方に基づき、100の言葉という考え方**をもとに、こどもの様々な表現・コミュニケーションを大切に、耳を澄まし、目を凝らし、共に学んでいく教育アプローチです。」

レッジョ・アプローチの大きな特徴とは、手法ではなくあくまでも方向性を示すアプローチ、すなわち哲学であるということです。基本的に、同じ手法がコピーされていくものではなく、localization (ローカライズ), culture (文化), language(言語)などの要素が重要となり、どの学校でも実際の実施内容はそれぞれ違うというところが特筆すべき点であり、同時に初めてレッジョ・アプローチについて聞く人が中々全容を把握しにくい点でもあります。

例えば、同じイタリアで発祥したモンテッソーリ教育に関しては、先生の認定資格があり、世界中のどこのモンテッソーリ教育の学校でも、一歩足を踏み入れると「ここはモンテッソーリ教育の場だな」と感じられる共通点がありますが、レッジョ・アプローチに関しては、教員の認定資格や教具といったものは用意されておらず、あくまで子供達との関わり合いの方法としてのアプローチが発信されているといえます。

また、イタリアといっても、このレッジョ・アプローチを実施しているのは、レッジョ・エミリア市周辺が中心となっており、 イタリア全土にレッジョ・アプローチが普及しているとはまだいえない状況で、都市国家の独立性が現れています。逆に他の都市では、この手法に影響を受けた、インターナショナルスクールにて多く取り入れられているそうです。

注釈:* 社会構築主義とは、人間関係が現実を作るという考え方である。 (Wikipediaより)

**レッジョ・エミリア保育の創設者の一人であるローリス・マラグッツィの詩「子どもたちの100の言葉」が体現する、こどもは100以上の言葉をもつという考え方

レッジョ・アプローチのポイント

ここからは、バレンタイン先生から教わった、レッジョ・アプローチの特徴をお伝えします。

その1:子供達の主体的な学びを促す仕組み

レッジョ・アプローチは、子供の興味、関心に応じてカリキュラムの内容が変わり、また先生が生徒に教えるのではなく、子供達が主体的に学ぶことを重視しています

子供の興味を伸ばしていくことで、子供が育つことを中心に考えており、また、子ども一人一人がアイデンティティを持っており、集団の中で学んでいくことを重視し、個別に指導するアプローチはあまり取りません。

日本の幼稚園や保育園のように、学期毎の明確な教育カリキュラム、保育カリキュラムは存在せず、先生達は大枠のコンセプトは設定しますが(例えば、“アイデンティティについて”など)、実際に子供達に具体的にこれをやりなさい、こうしなさい、と言った指示をすることはないそうです。先生が子供達に提案し、強制はせず、子供達には先生達と交渉する権利があり、先生はあくまでもガイド・コーチ・ファシリテーター等の役割を果たします。

先生達は子供達を観察して、子供達が今どのようなことに興味があるのかを目を凝らし、そして子供達とのコミュニケーションを通じて、子供達のやりたいことをガイドしていきます。 長期的なプロジェクトの内容は先生から与えられるものではありません。先生達は興味の方向性をガイドし、子供達が階段を駆け上がれるようにサポートし、プロジェクト活動を高め・深めていくのです。

セミナーですが、聞くだけでなくみんなが参加します

セミナーですが、聞くだけでなくみんなが参加します

その2:社会で求められている力を育むアプローチ

ここで、レッジョ・アプローチのポイントについて、伊原さん、西ケ谷さんから面白い例えをいただきましたので、ご紹介したいと思います。

「現在多くの企業が取り組んでいる新規事業を立ち上げるというような活動に、レッジョ・アプローチは似ているかもしれません。上司がプロジェクト内容を決め、周りがそれに従うというような進め方では、なかなか活気のある活動は生まれません。しかし、社員がただ自由気ままに活動していれば、新規事業がうまくいくわけではありません。いかに実りのある活動を発生させ、サポートしていくかは、難しい事ではありますが、現代に強く求められているスキルでもあります。
レッジョ・アプローチにおける先生の役割は新規事業を上手にサポートする上司の立場に似ているかもしれません。レッジョ教育では学校は社会から隔離されたものではなく、社会を反映したものでなければならないと考えています。社会で必要とされている色々な能力を教育の中で育んでいく、そんな彼らの試み・思想がレッジョを世界的に評価させている一つの要因かもしれません。」

実際に企業の例に例えられると、レッジョ・アプローチの意図が理解しやすくなりますね。

その3:レッジョ・アプローチにおける具体的な活動

ここからは具体的に、レッジョ・アプローチの園がどのような環境の中にあり、子供達がどのような活動をしているのかについてご紹介します。市が運営する約70の公立レッジョ・アプローチ校が財政豊かなレッジョ・エミリア市にはありますが、どのプリスクールも恵まれた環境にあり、そして驚くべききめ細かさで、アートを活用しながら感性を刺激する、クリエイティブな保育活動が行われています。そしてアプローチは常に研究され時代とともにアップデートされています(例:テクノロジーの取り入れ方など)

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1)豊かな保育環境

レッジョ・アプローチでは、子供達が過ごす園の環境が重視され、環境は第3の先生であると考えられています。 子供達は美しい環境の中にいる権利があるとも考えます。「学校は水族館のようなところ」という表現が使われており、中からも外からも観られる透明性が保たれた環境であることも重要視されています。バレンタイン先生が勤務する園もガラス張りになっており、中からも外からも様子が見えるとてもオープンで透明性の高い園の構造になっていました。これも、社会との繋がりを大切にすること、学び合いを重視していることから生まれているそうです。

実際の施設環境例

レッジョ・エミリアの代表的な園の紹介があり、具体的にはこのような施設構成になっています。

・  生徒数:約80名(3-6歳)

・  ピアッツァ:園の中心には「ピアッツア(広場)」と言われる場所があり、どのクラスの子達も自由に行き来ができる。これは、イタリアの街と同じ構成になっており、ここで子供達が行き交うことで自然な交流が促進される

・  アトリエ:アトリエにはアトリエスタという専門家がいて、芸術学位を持った先生が子供達の芸術活動をサポートしている。また、電子顕微鏡やパソコンが設置され、設備も充実している。

・  クラスルーム:1クラスが大体25名前後で、先生は2名体制

・  シェフとキッチン:園にはシェフがいて、キッチンもあり、手作りの料理が食べられる

・  ドキュメンテーション:レッジョ・アプローチの一つの特徴である、詳細なドキュメンテーション(記録)が園の入口に掲出されてあり、保護者はそのドキュメンテーションから子供達の活動の様子を知ることができる

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2)子供達の活動内容の例

 では、園では子供達はどのような活動をしているのでしょうか。ビデオで紹介されていた5歳児クラスの例をご紹介したいと思います。この5歳児クラスは、各グループ(4-5人)が個別にテーマを決めてプロジェクトを行なっており、5歳児ながら、プロジェクトの最後に皆の前でグループ毎にプレゼンテーションするという活動をしていました。

<1日の活動内容>

●    7時半〜9時 登園時間

この時間は子供達はクラスに捉われず、自由に園内で過ごすことができる

●    9時 朝会 

前日までの活動をクラスで話し合う。先生は子供たちの意見を聞くことと、グループでの会話を促し、子供達が意見を言い決めていく。こういった活動を通して、批判的思考能力を身につけていく。

●   9時半頃 プロジェクト活動

朝会後、2時間程度プロジェクトの時間となりグループ毎に活動。活動の場所はクラスに制限されず、広場やアトリエなど思い思い各グループが場所を決めている。

先生達は各グループの活動に対して、その日その日の各グループの活動状況を把握し、関わった方が良いところを見極めて、順番に回っていき、アドバイスなどを実施。

例えばあるグループは「transformation(変身)」をテーマに、アトリエにあるフォトショップを利用して制作物を作った。アトリエスタの先生が子供達にやり方を教え、子供達自ら覚えて制作活動を行う。レッジョ・アプローズは、新しいテクノロジーについてもフレキシブルな考え方を持っている。

●   12時頃 ランチタイム

配膳も自分達で行い、食事の準備や片付けも子供達が自ら行う。

●   14時 お昼寝その後おやつ

先生達はこの間に、子供達の学習プロセスを可視化するために、ドキュメンテーションを作成し、子供達がどのように学んでいくかを記録していき、今後の活動サポートについてメンターとなるベテラン教師と若手教師でディスカッションを行う。

●   その他の活動

お店屋さんごっこなどを通じて、数的教育要素を学ぶ。各お店には、値札ついたものがあり、実際にその金額を払うことで、社会で実際に行われている日々の購買活動や数字のやり取りを学んでいく。お金の計算や払い方が分からない子がいたら、子供達同士が教えあって学んでいくことを推進する。

また、中庭に出て絵を描いたり、紅葉で色づいた葉を拾ってアート作品を創ったり、アトリエで造形物を作ったり、多彩なアート活動が随所に取り入れられている。レッジョ・アプローチでは、子供たちは100の方法、言語で表現していると言われており、先生達はその100の表現を汲み取っていくために、アートが一つの手段となっており、感性に訴え、想像力と創造力を豊かするような仕組みが沢山取り入れられてる。

●     16時               随時降園

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3)保護者との関わり

レッジョ・アプローチは、Social Constructionism / Constructivism(社会構築主義)という考え方をベースにしており、人間は個人ではなく社会という集団の中で生活しているということを根底の考え方に据えています。その観点から園も社会と積極的に関わっていくということを重視しています。

園は保護者や現地コミュニティとの関わりを非常に大切にしており、定期的に保護者と先生が一緒にディスカッションを行う、イブニングミーティングが開催されています。また、定期的に住民代表者も巻き込んだタウンミーティングが開催される園もあります。

保護者とのミーティングでは、今子供達がどのようなことをに興味があり、活動をしているかを共有し、保護者達が先生達とディスカッションをすることで、より活動内容への理解を深めることが出来ます。また保護者が園に提案をすることができ、非常に民主的なプロセスによって運営されています。お祝い事や園の活動への保護者の積極的な関わりも求められ、親子が一緒に参画して学ぶことが重視されています。

親が園の活動に積極的に参加することは、日本の幼稚園でもよくあるかと思います。ただ日本の幼稚園などのように役割が強制されるのではなく、園と保護者のディスカッションの場から関係性が始まることで、活動内容や役割を理解した上で親御さんが積極的に参加している印象を持ちました。

モンテッソーリ教育との違い

最後に、同じイタリアを発祥とするモンテッソーリ教育との違いについて、伊原さん、西ケ谷さんにお伺いしました。

「まず、モンテッソーリはメソッドであります。レッジョはアプローチです。メソッドは方式としてありますが、アプローチは方向を示し、常に取り組む内容が変化します。レッジョ教育最大の貢献者であるローリス・マラグッツィはモンテッソーリ教育を高く評価していました。レッジョ教育はモンテッソーリ教育から大きな影響を受けました。旧ソビエトの心理学者ヴィゴツキーの社会構成主義からも大きな影響を受けているレッジョ教育は学び合いという考え方を重視します。一人一人のプライベートなお仕事を重視するモンテッソーリとは対照的かもしれません。因みに、バカロレア教育、アクティブ・ラーニングなどもビィゴツキーから大きな影響を受けており、学び合いという方法を採用しています。」

同じイタリアを発祥とし、モンテッソーリ教育の影響を受けながらも、個別の成長ではなく、集団での学び合いということを重視しているのがレッジョ・アプローチの特徴と言えるのではないでしょうか。また、アトリエリスタ(芸術士)、ペタゴジスタ(実践/理論の橋渡しをする、教育コーディネーター)という存在が先生たちと共同しながら活動を行っていくという、高度な教育を行う上で欠かせない仕組みにも、先生達が多様な視点で共に子供達を育てるという姿勢が見て取れると思います。

レッジョ・アプローチは幼稚園だけ? (竹村による追記)

今までレッジョ・アプローチは幼稚園という枠組みで広がっていますが、最近はレッジョ・アプローチの小学校や中学の開設も始まっているそうです。MIT Media Lab のレズニアック教授が上梓された「Lifelong Kidergarten」では、4P (Project,Passion,Peers,Play) のプロセスよる、クリエイティビティを育む教育とは、幼稚園生のように小学校以上の子供達が学ぶことだと指摘されています。7歳になった時に学びのアプローチを180度変える必要は無いということを、レッジョ・アプローチの小中学校が今後提示してくれそうで楽しみです。ちなみに、モンテッソーリ教育も日本では幼稚園が主に普及していますが、諸外国では、小学校から高校まで存在しているようです。アクティブラーニングが政府からも提唱される今、幼児が主体的に探求し学ぶアプローチから学べることも多いのでは無いでしょうか?

レッジョ・アプローチの現場がわかる動画

百聞は一見に如かず、ということで、伊原さんと西ケ谷さんにレッジョ・アプローチがよく理解できるオススメの動画をご紹介いただきましたので是非ご覧ください。

(全て英語になります)

最後に

個人的な感想になりますが、レッジョ・アプローチについて知るにつれ、先生達の質の高さ(自己研鑽力、探究心、ファシリテーション力、芸術性など)、熱意、創意工夫など、多面的な能力が求められることに驚きました。先生方へのトレーニングも重視されており、ベテランの先生が、自身が培ってきた考え方やアプローチをペアになる若手の先生に教えることでより先生の資質も高まっていくそうです。自宅に取り入れるのが難しいアプローチではありますが、世界には様々な教育手法や考え方があり、自身の子育てを通じて、幅広い視点で子供の教育について考え、今後も発信していければと改めて感じた内容の濃いセミナーでした。最後までお付き合いいただきありがとうございます。

今回のセミナーを主催頂いた、東京チルドレンズガーデンについて

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東京チルドレンズガーデンは品川区池田山にあるこども一人一人を本物の意味でサポートするインターナショナル幼稚園です。最高の教育を追求する園として、レッジョ教育から大きな影響を受けていますが、日本的良さを大切にする独自カリキュラム実践します。自らを知ることで初めて国際人になれるという考え方をもとに、創造性に富み、社会性を兼ね備えた力強い人間の育ちをサポートしていく、こどもと大人のための場所です。定期的に一般参加が可能なイベントも開催されています。

東京チルドレンズガーデン 公式サイト

公式フェイスブックページ (最新のイベント情報はこちらでチェック)

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著者プロフィール

島田 敦子

教育関連企業、自動車メーカー、IT企業でのマーケティング職を経て、米系機関に勤務。現在はIT業界に関連したリサーチや、ビジネスコンサルなどに携わる。2004年頃からダイバーシティプロジェクトに参画したことをきっかけに、ワーキングマザーの取材やイベント活動などをプライベートで実施。妊娠・出産を機に次世代教育や、AI時代の教育に興味を持つようになり、現在はモンテッソーリ講師養成講座を受講中。一児の母。

慶應義塾大学総合政策学部卒