人工知能 (AI) 時代における子育てを考える:藤野貴教氏インタビュー (第1回)

2017年に入り、「人工知能 (英語でのArtificial Intelligenceを略称して、以下 "AI")」というワードをメディアなどを通じて聞く機会が増えてきています。よく、「AIにより仕事が代替される」、「AIが人間を超える(シンギュラリティ(技術的特異点)の到来)」、また「今の子供達の大半は、大人になる頃には全く新しい仕事を経験することになる」と言われていますが、来たるべきAI時代を見据えて、我々親世代ができることはどのようなことなのでしょうか。

この大きなテーマへのヒントとなるお話を『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』(かんき出版)の著書、藤野貴教さんに伺いました。今後のAI時代における子育て、教育や親の役割について、3回の連載でお届けします。本日のテーマは、「AI時代における親の役割とは?」です


テーマ1:AI時代における親の役割とは?

Q)人工知能(以下、AI)がもたらす変化と親の役割について教えてください。

インターネットの発展から読み解いてみる

藤野さん:人工知能と聞くと、なんだか難しいものだとか、まだ先のことだと感じる方が多いかも知れません。また、こういったAIについて親自身が知ることが必要だと言われると、つい身構えてしまうかもしれませんが、自分達自身が経験してきた過去のことを振り返ると少し身近に感じられるかも知れません。


例えば、今でこそ皆さんが当たり前のように利用しているインターネット。インターネットが始まる前の段階で、インターネット時代を見据えて子育てができていたかというとそうではなかったと思うのです。ただ、このようなテクノロジーの進化によって、生き方、学ぶことが変わったとは皆さん実感していると思います。

AIに関しては、インターネットが生み出した変化と比較し、さらなる変化を生むと言われています。「AIが起こす時代の変化とはどんなものなのか」と、まず関心を持つきっかけを持って欲しいと思っています。


インターネットによる変化ですが、例えば、留学を例にとってみて考えてみましょう。インターネットのなかった時代には留学センターなどの情報がある特定の場所に相談しに行くのがスタンダードでした。

しかし、インターネットの普及により自宅にいながら留学情報を取得できたり、「トビタテ!留学JAPANジャパン」のような国が補助金を出してくれる留学サポート制度を知ることができたり、行きたい学校の詳しい情報をSNSなどを活用して口コミを調べたりなどができるようになりました。明らかに、選択肢が豊富になった時代になりました。


一方で、同時に、選択肢が増えて、悩むことも増えているのも事実ですよね。例えば東大に入れる学力のお子さんがいたとして、留学について知る前は、東大か京大かという選択肢だったかもしれませんが、世界の大学を知ることで、スタンフォードに挑戦しよう、といった選択肢が生まれるかもしれません。

つまり、インターネットのなかった時代と比較し、圧倒的に取得できる情報量が増え、選択肢が豊富になり、その結果、意思決定が難しくなっています。


こういった、いつでもどこでも情報が取れる時代では、選択肢が膨大になる分、そこから取捨選択し、決める力、「意思決定力」が重要な時代になってきています。親と子供がそれぞれ、意思決定をする力を持つことが大切です。

親の役割:それは「時代の潮流を知る」こと

意思決定をするためには大事なことが2つあります。

  1. 世の中の潮流を知る、予想しようとすること
  2. 親も子も自らが決断すること


世の中の潮流を読むと聞くと、難しそうに感じてしまうかも知れませんが、大体で良いので、こういう方向性に行くのではないかという感覚を掴むことです。

例えば、これから個人は企業に依存するよりは自立した生き方をして行く方向に行くと考えるのか、ずっと企業に依存して生きていくのかと考えると、先々個人はより自立した生き方をしていくと思いますよね。こういった感覚からでまずは良いのです。

未来のことは誰も正確には予想することはできません。これから5年から20年において世の中がテクノロジーの進化を中心としてどういう変化が起きてくるのか。社会はどうなるのか。ビジネスはどうなるのか、そして人間の働き方はどうなって人間の能力は何を求められるのかということについて正確に語れる人もいません。

しかし、情報を多く収集した上でこういう風になるのではないか?といったビジョンを親自身が持っていないと、子供に対してアドバイスもできないと思うのです。親自身が自分ゴトとして未来の潮流を見据えることがとても大事になっています。


先日、とある製造業の企業での研修が終わった後に、高校3年生のお子さんを持つ50代の男性の方からこんな質問をいただきました。息子さんの進学先について、地元の国立大学に進学させるのが良いか、都内の私立が良いかと悩んでいて、どちらが良いと思いますか?という質問でした。

そこで私は、「世の中の潮流を知った上で、父親としてどんなアドバイスをしてあげたいですか?」という問いかけをしました。するとその方はハッとされて、「藤野さんはだから世の中の潮流を知ることが大事だとおっしゃっていたのですね」と気づかれたのです。

ご自身は50代で、これからの人工知能時代はあまり自分の人生にあまり大きな影響を与えないと思っていらっしゃったようなのですが、ご自身の子供のキャリアとなった瞬間に自分ゴトになったようでした。親自身が、自分なりの意見をいうためにも、潮流を知ることが大事だということを改めて認識する必要があるのだと思います。
それはすなわち、世の中の潮流を読み、周りに流されず自ら決断する、「意思決定力」を磨くことが必要だということです。

テーマ2:意思決定力と直感を磨くには

Q)これからの時代において、意思決定力が重要ということはわかりましたが、ではこれはどのように磨いていけば良いのでしょうか?

意思決定力を磨く

さて、「意思決定力」はどうやって磨かれるのでしょうか。身近なところでは、ちょっとした小さな決断を増やして行くことが良いかもしれません。例えば、今日のランチに何を食べようでもいいのです。ちなみに、人間の面白いところは、本能的な欲求に基づいて意思決定をしていることが多々あることです。例えば、頭では「これを食べたらカロリーが高いから食べない方が良い」とわかっていてもそう決断できないことも沢山ありますよね。ただ、普段我々は理論や理屈を優先してしまうことが多く、これからの時代は、理論や理屈を重視し過ぎず、同時に直感も大事にする時代になっています。意思決定において、直感が大切なのです。ちなみに、「直感」だけあれば良いというのではなく、「直感+理由(論理)」が必要な時代になってきます。

直感力を磨く

直感力について僕自身が大事にしているのは「身体の声を聞くこと」だと思っていて、意図的にやっています。

身体感覚を大切にするということなのですが、日本語には身体性を使って表現される言葉が沢山ありますよね。たとえば、「気が乗らない」「ピンと来る」「腑に落ちない」「肚で決める」などです。つまり、身体的感覚と直感が結びついているんですね。身体的感覚が先に来て、考えが決まります。しかし我々大人は、気づけば身体感覚よりも、理屈や考えを重要視するようになっているので、これからの時代は、論理や考え以上にこう言った身体的感覚が大事になってくると思います。

僕自身はサーフィンやスタンディングアップパドルを趣味としているのですが、朝仕事に行く前の海に行って、登ってくる太陽の光を浴びて、「あー、心地よい」と心からしみじみ感じることがあります。こういった感情も身体性から来ていて、太陽の光を浴びて、体がじわーっと暖かくなっていって、そこはかとなく、気持ちが良いなぁとか幸せだなとか感じる訳です。海じゃなくても、朝日が東から登るのを感じる、風を感じる、そんなことが身体性を磨くことにつながると思っています。


子供の直感力を育てるには

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直感は身体的違和感から生まれてきます。子供達が、言語化できる前のモヤっとした感覚を持つことが直感力を高めるのヒントで、モヤっとした時になんで?という問いが立ちます。親はその子供が持つ、「モヤっとした感覚」に気づくことが大事で、モヤっとしているんだなと気づくだけでいいのです。

子供が自ら「なんで?」と言い出すことが多いと思いますのでそれを待ってみてください。ちなみに、親は答えを出す必要ありません。モヤっとした状態から、「なんで?」という問いを発することが最初のステップです。特に小学校4年生くらいまでは、モヤっとしていることを言語化することがまだ苦手なので、焦らず長い目で接することが大事だと思います。


例えば、小学校2年生の息子がいるのですが、とても感性に素直な息子です。今年の夏休初日に夏休みの宿題の話をしたら、「夏休みは休みなのに、なんで宿題をやらなきゃいけないの?」と言われました。親の感情としては、「いいから黙って宿題やれよ」とイラっとしまいますが、そういう感情を持つのはある意味人間として自然なことで、まずは自分の感情に気づくことが必要なんじゃないかなと思っています。

気づくと、相手が言っていることに、一歩引いた冷静なリアクションが出てきます。「確かに、そうかも」と思ったりします。そこで僕は、「じゃあ、なぜ夏休みに宿題があるのかを、夏休みの宿題にしたら?」と言ったのですが、息子は「父ちゃんきらい」とプイッと行ってしまいました(笑)。息子が直感的に感じた疑問に対して、息子がどう意思決定するかは、本人次第なんだなと、やっぱり思うわけです。そこに親が口出しする必要はないのかなと感じました。


ただ、こういう話をすると、「とはいえ、学校の勉強に遅れてしまうのでは?」という不安な気持ちになる方もいると思います。ここにテクノロジーの文脈がある気がしています。そもそも、テクノロジーが進化する時代において、頭が良いとか能力があるということが変化していくのではないでしょうか。


AI時代において、頭の良さの定義も変わっていく

宿題の話や学校教育に関連して、これからテクノロジーがさらに進化して行くと、「頭の良さ」と言った定義が大きく変わっていくように思います。一昔前までは、「計算が早い」「暗記力がある」「学校の勉強ができる」と言ったことがいわゆる、「頭が良い」と言われて来ましたが、これからは、そのような読み書き算数の能力はAIに代替されていくでしょう。記憶力があることは、頭が良いという要素の1つでしかありません。計算の速さや計算量は圧倒的にAIの方が早く、人間を凌駕する計算力を持っています。

では、「本当の頭の良さ」とは何でしょうか。今後は、人間にはより一層考える力が重要になります。つまり、なんのために、どうやるのか、 ビジョンや目的を設定し、ストーリーを作り、人を巻き込んでいくことが人間に残された領域で、これはAIにはできない領域です。


また、頭の良さの定義の変化だけではなく、さらに人間にとっては「どう生きるのか?」が問われる時代になって行きます。人間には、異なる2つのことを同時に考え、処理できる、所謂、統合理解という能力があります。例えば直感や、論理性など矛盾や葛藤をしながら理解、意思決定していけるということなのですが、こう言った「人間らしさ」も大切になっています。

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著者紹介:

藤野貴教

株式会社働きごこち研究所 
代表取締役/ワークスタイルクリエイター
 

藤野氏プロフィール

アクセンチュア、人事コンサルティング会社を経て、東証マザーズ上場のIT企業において、人事採用・組織活性・新規事業開発・営業MGRを経験。
2007年、株式会社働きごこち研究所を設立。「働くって楽しい!」と感じられる働きごこちのよい組織づくりの支援を実践中。「今までにないクリエイティブなやり方」を提案する
採用コンサルタントとしても活躍。グロービス経営大学院MBA。
2015年より「テクノロジーの進化と人間の働き方の進化」をメイン研究領域としている。日本のビジネスパーソンのテクノロジーリテラシーを高め、人工知能時代のビジネスリーダーを育てることを志として、全力で取り組んでいる。2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方(かんき出版)を上梓。
2006年、27歳の時に東京を「卒業」。愛知県の田舎(西尾市幡豆町ハズフォルニア)で
子育て中。家は海まで歩いて5分。職場までは1時間半。
趣味はスタンディングアップパドル(SUP)。朝の海が大好き。自宅の隣の田んぼでお米を作っている。

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ライタープロフィール

島田 敦子 | Atsuko Shimada

教育関連企業、自動車メーカー、IT企業でのマーケティング職を経て、米系機関に勤務。現在はIT業界に関連したリサーチや、ビジネスコンサルなどに携わる。2004年頃からダイバーシティプロジェクトに参画したことをきっかけに、ワーキングマザーの取材やイベント活動などをプライベートで実施。妊娠・出産を機に次世代教育や、AI時代の教育に興味を持つようになり、現在はモンテッソーリ講師養成講座を受講中。一児の母。 慶應義塾大学総合政策学部卒