サンフランシスコで最も新しい21世紀型中学校、ミレニアム・スクール (Millennium School) とは?

アメリカの新学期は9月に始まります。4月には入学手続きを始めるため、1月〜2月はOpen House といって、保護者が学校を見学し入学の判断をするため情報収集できる場が設けられます。筆者はこのOpen Houseを利用して、サンフランシスコ近郊の気になる先進的な学校を数カ所見学しておりました。

学校案内の1ページから

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その中でも今回ご紹介したいのは、サンフランシスコで最も新しい21世紀型中学校、2016年8月に設立されたばかりの 「Millennium School (ミレニアム・スクール)」 です。プログレッシブ教育を基本とし、中学校の場を問い直しデザインした未来型の私立学校です。

Millennium Schoolがなぜ未来型なのか。それは下記の5つのキーワードにあると訪問して感じました。

  1. 中学校の場を新しくデザイン

  2. 生徒の情熱を伸ばす

  3. 実社会に近い学び環境

  4. ハッピーで目的溢れる人生を送る

  5. 多様性を育む

以下、キーワードごとにご紹介します。

学内の様子

学内の様子

中学校の場を新しくデザイン

読者の皆さんにとって中学校はどのような場所でしたか?私は日本の中高一貫校へ通っていたので私にとって中学校は、大学受験のプレッシャーが漂い始める場でした。周りから遅れないようテストに緊張感を持って取り組んでいた日々でした。Millennium Schoolはそれとは対照的に、中学校は、生徒のアイデンティティが形成される大事な時期と考えます。自分は何者なのか、他者とどうつきあっていくのか、実生活でどう行動するのか、という「問いかけ」が芽生えてくるとき。生徒一人一人がその「問いかけ」に前向きに向き合うサポートしていくことを目指し、それを元に授業カリキュラムが創られています。

学期制は取らず、6週間のプロジェクト5つを年間通して実施します。教科横断型のプロジェクトで少人数のグループワークを通し学びます。教科横断型にすることで必要な知識を選んで使って問題解決することで、より教科知識が習得しやすいと考えるためです。またプロジェクトを通し、考え抜く力、プレゼンテーション、チームワークを学びます。先生は一人一人に沿った指導メンタリングを心がけチームが円滑に動くようサポートします。 

生徒の情熱を伸ばす

Open Houseに一緒に参加していた保護者のお父さまと立ち話をしました。その保護者の方にどんな学校を探しているか尋ねると、「うちの子はADHD (多動性障害) だから普通の大人数タイプの学校では合わないと思っていてね。少人数の学校を探しているんだ。」と話していらっしゃいました。お子様の才能を信じる親御さんにとって学校選びはとても慎重です。従来のOne-Size-Fits-All型で正解が存在し全員が正解に合わせる授業ではなく、プロジェクトの実践をベースに、個人に沿った目標を6週間プロジェクトで設定をするので他の生徒と目標やアプローチが違うのが普通という環境です。そして”Personal Quests”として生徒が情熱を感じている分野を個人プロジェクトとして同時並行で進めます。生徒が自分の時間を管理しゴール設定して、最終的に学校外の専門家にプレゼンテーションをします。例えばある生徒はロボットに興味があるので、ロボティクスのプロジェクトをプロのエンジニアからアドバイスを受けながら進めることができます。生徒一人一人の情熱に没頭できる場を設けられるので生徒は良い意味で忙しくなり、他の生徒と優劣を比較する、なんてことにはならなさそうですね。

実社会に近い学び環境

従来の学校は「守られた神聖な場所」。実社会のスピード感とは違った空気が流れていると思います。Millennium Schoolは、子供たちには実社会にできるだけ近い環境に触れることを方針にしています。社会でどう振舞っていくのか考える機会を持つためです。そこで、全ての生徒たちが役割を持つことを基本とします。興味深いのは、日本の学校のように、給食当番も配置します。ケータリング業者と生徒がやりとりして、ベジタリアンの生徒に配慮して注文するなど。給食係が責任を持って生徒全員に食事を外部の大人とやりとりをして調整をします。

また、先ほど紹介した”Personal Quests”の個人プロジェクトも自分の興味のある分野と実社会のつながりを学ぶ最良の機会でしょう。先生へ質問するのではなく、直接その道のプロからアドバイスを求め、学校の外へ出てフィールドトリップや施設訪問を通し実社会で活躍する専門家へ直接質問をしていくことを中学生のうちから養います。

ハッピーで目的に溢れる人生を送る

Millennium Schoolは教育のゴールを、「ハッピーで目的に溢れた人生を送る人を育てる」と定めています。社会で活躍する優秀な人材というより人生の中で目的を見いだし幸せに生きていくスキルを養うことに重きが置かれています。

そこでハッピーであることの喜びを噛み締めてほしい、という狙いのもと、表現をすることを通したCreative Expressionの時間としてアートのプロジェクトが積極的に実施されています。またスタンフォード大学やUCバークレーの脳科学機関と連携し、右脳を使って、ストレスなく授業に取り組めるような脳科学に基づいたカリキュラムやマインドフルネスも積極的に取り入れられており、毎朝10分瞑想の時間があるそうです。保護者向けにも、脳科学者から直接子育てに関する講演を聞ける機会もあり、学校と家庭が一緒に子供のハッピーな人生をサポートしていこうという姿勢が伝わります。

多様性を育む

Millenum Schoolの基本方針としては実社会に近い環境づくりをしていくということを先ほど書きましたが、生徒の配置もサンフランシスコの街の実際の人種や世帯年収の割合に近い形に合わせるようバランスを考え入学許可をしていくため、Flexible Tuition (柔軟な学費制度)が導入されています。現在6年生 (中学1年生)の48%が学費援助対象となっており、44%が有色人種の生徒たちということです。学費が比較的高額な一般的な私立の学校は白人の生徒が多く、黒人やヒスパニック系の生徒たちは少数派です。公立と私立の学校とでは人種の構成が異なっているのが残念ながらアメリカ教育現場の現状です。Millennium Schoolの関係者はこのようにコメントしてました。「生徒たちが社会に出て大人になるとき。子供たちはコミュニティにいる大人たちと平等に倫理観を持って協力していく必要がある。わたしたちは中学校の時期に実社会の等身大に近い空間を作り出し、生徒たち同士がチームワークを築ける力を養います。一部の富裕層の生徒だけに良質な教育の場を提供するのではなく、様々な経済環境の生徒にも学費援助を通して提供する方針です。」

さいごに

以上、先進的な中学校であるMillennium Schoolの紹介をしていきました。未来のアメリカの私立学校としては特に最後の「多様性を育む」ことが重要なのではと思います。現在のアメリカはトランプ政権誕生に伴い、国が分断を物語る社会となってしまいました。同じ国で生きているというのに、異なる考えをもち互いに溝が深まってしまったように思います。未来に生きる子供たちには、溝を作るのではなく、共にコミュニティの一員として共生し問題解決をしていき、正しい情報に基づいて判断できる倫理観、共感力を持ったリーダーとして羽ばたいていってほしい、と願うばかりです。先進的な高いクオリティの教育を一部のエリートだけが機会を得るのではなく、実社会の等身大を表したコミュニティの多様性の中で生徒たちが一緒に学んでいく。これが真の意味でいまのアメリカの「新しい学校」の姿なのかもしれない、と考えさせられます。Millennium Schoolのチャレンジはまだ始まったばかりです。来年度以降は3学年生徒100人規模の生徒に21世紀型教育を実現していきます。

貧富の格差は日本でも広がっており(2015年OECDの調査で日本の貧困率15%)アメリカの現実は日本の将来にも起こり得るのではないか、と考えます。最新のテクノロジーが装備された学習環境も大事ですが、日本の未来を生きる子供たちにも実社会に近い環境で、多様性を理解し、自分は何者なのか、他者とどうつきあっていくのか、実生活でどう行動するのか、という「問いかけ」ができる安全な場を創っていくこともこれからの日本でも必要なのではと思います。

著者プロフィール:

橋本 智恵

教育テクノロジー関連のフリーランス。ソニーの新規事業 (EdTech / STEM教育サービス)の米国市場リサーチ、Business Developmentを務める。EdTechWomen Tokyo Founder。シリコンバレーの21世紀教育、Edtech事情についてブログ更新中

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