自分自身を客観的に捉える「メタ認知」を取り入れた授業とは?

2020年から実施される新学習指導要領にも登場してくる「アクティブラーニング」という言葉。この「アクティブラーニング」について議論されている場でよく目にするようになってきたのがアクティブラーニングを進めていくうえで重要となる「メタ認知」(自分自身を客観的に捉えること)。社会人の方はセミナーや社員研修などで聞いたことがあるかもしれません。以前読んだベネッセ教育総合研究所によるレポート「生徒主体の学びのデザイン 「アクティブラーニングを活用した指導を評価研究」より」でも「メタ認知」の重要性について触れていました。

大人であれば「自分自身を客観的に捉える、俯瞰する」ということを実践出来るかどうかは別として漠然と理解することは出来ます。しかし、小学生や中学生に自分の考え方や行動を客観的に捉えるということを説明するのは難しいのではと感じていたところ、ヒントとなるような記事を見つけました。

映画監督 ジョージルーカスが設立したジョージルーカス教育財団。その財団が運営しているアメリカの人気教育系サイト「Edutopia」の記事を紹介しながら筆者の実体験も交えつつ「メタ認知」を取り入れた授業について今お伝えします。

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Building a Metacognitive Classroom

脳科学と心理学を教育に応用したプログラム(Brain-Based Teaching)を開発提供している筆者Donna Wilson氏と Marcus Conyers氏 が書いたこちらの記事「Building a Metacognitive Classroom」。(metacognitive=メタ認知)

この中で筆者は生徒に神経可塑性(しんけいかそせい)※1や脳の潜在能力、構造、つまり、学習を継続することで脳の構造や機能が変わっていくことを教えると彼らの自己理解、学習意欲の向上、そしてグリット(くじけない心)を培うことに繋がっていく可能性が高いということを説明しています。

小学校での具体例

一例として、小学2年生のクラスで実際に行われた授業の様子が紹介されていました。

Nova Southeastern Universityでbrain based teaching の修士号を取得したテキサスのDaine Dahl先生は脳の構造について遊びの要素を取り入れながら授業を行っています。

生徒はまずニューロン、樹状突起、軸索が何であるか、そして軸索と樹状突起によって作られたニューロンのつながりがどのように学習の仕組みに関係しているのかを学びます。そして、既に持っている知識と新しい情報を繋ぐことの重要性についてパイプクリーナと付箋を使った脳のモデルを作り、思考や学習について授業の中で説明しているそうです。年間を通して、生徒は新しい軸索を作成して脳のモデルに付け加え、学習した新しい知識は付箋に書いて貼っていきます。(生徒作品の参考画像は原文をご覧ください。

 出典:Wikipedia 神経繊維

出典:Wikipedia 神経繊維

 

この学習方法を成功させるためのポイントが3つ挙げられています。

・学期が進むにつれて、脳のモデルは複雑になっていきます。Dahl先生の生徒の小学2年生にとっては(モールを使った)新しい軸索を加えることが難しいので、ある時点からは先生が軸索を繋ぐことを引き継ぎました。もっと高学年であれば、それは問題でないかもしれません。

・付箋を先生自身が書くことで脳に追加された新しい学習を把握することが出来るようにする。

・生徒が付箋を読める高さを考え、また教室内の移動を妨げないよう配慮してて天井から脳のモデルを吊り下げる。
     
・可能であれば、新しい学習が他のコンテンツ、知識とどのように関係しているかを議論する。

Daine Dahl先生はそれぞれの子供が驚くほどユニークな脳を持ち、鍛えたり努力し続けることで、全て生徒が1年を通して多くのことを学び、覚えているということも強調しています。

中学校での具体例

この記事に関連した別の記事「The Boss of My Brain」では中学校での例を紹介してました。

フロリダの中学校教師Cecelia Beagle先生はストレスとうまく付き合う方法について脳の構造を通して教えています。

中学校では多くの生徒がテストでいい結果を残さなければいけないというプレッシャーを感じるあまり、結果としてパフォーマンスを落としてしまう可能性があります。まずは、ストレスを感じると思考が鈍ってきたり、物覚えが悪くなってしまう可能性があるということを伝えます。ではどうすればストレスを軽減することが出来るか?先生はストレッチをすることでストレスを軽減させることが出来るということを生徒達に伝えます。ストレスを感じているということを認識し、対策を講じてみる。この一連の流れを繰り返すことでクラスの雰囲気が変わっていったとのことです。Cecelia Beagle先生はストレスをコントロールすることは高校、大学、その後の人生についても役立つことであるということも生徒に伝えているそうです。

 

今回、この記事に興味を持ったのは私自身の実体験も関係しています。娘が通うアメリカの公立小学校の教室に「The Power of yet」と書かれたポスターが貼ってあり、子供達は自分自身を振り返りながら新学期にこのようなシートを記入していました。

 "yet"を強調するために色付けしています

"yet"を強調するために色付けしています

今出来ないことは「まだ」出来ないだけであって、挑戦し続ければ出来るようになる、という意味を込めて「Yet, yet, yet, the power of yet!」という言葉を先生から教わったそうで、一時期呪文のように唱えていました。(Stanford大学教授 Carol Dweck氏 が提唱している "The Power of Yet" についての詳しい内容はこちらの動画でご覧になれます。)子供の頃、学校の先生からこうした事を教わったことがなかった私は少し驚きましたが、この言葉を呟きながら宿題をしている娘を見ているうちにこれまで何気なく使っていた「出来ない」「無理」という言葉は子供の可能性を狭めてしまうもったいない言葉だと痛感しました。授業の中で先生は「metacognitive(メタ認知)」という言葉を使っていなかったようですが、子供達が自分自身を振り返りながら客観的に考えてみることで思考のクセに気付き、学習に対する姿勢に繋げていくという点においては「メタ認知」を取り入れた授業のひとつかもしれないと今回の記事を読んで思いました。

 

脳の構造、潜在能力について教えながら、私達はどうやって物事を記憶し、それを次の学びに生かしているのかその仕組みを「自分自身を客観的に見つめながら」理解する。そして、学びを継続していくことのおもしろさ大切さを伝えると同時に、時に学ぶことに疲れてしまったとしても、私達はそれに立ち向かう能力も持っていると伝えることは学生時代の勉強に留まらず、長い人生を通じて学び続けることにも大いに活かしていけるような気がしました。

※1 神経系は外界の刺激などによって常に機能的、構造的な変化を起こしており、この性質を一般に“可塑性(かそせい。英語ではplasticity)"と呼んでいる。神経の可塑性は大きく3つに分けられる。1つ目は脳が発生していく時や発達していく段階にみられる可塑性。2つ目は老化や障害を受けた時などに神経の機能単位が消失するが、それが補填・回復されていく場合。3つ目は記憶や学習などの高次の神経機能が営まれるための基盤となっているシナプスの可塑性(synaptic plasticity)である。特に神経科学にとっては3つ目が重要で、その機構についても徐々に明らかにされている。記憶には、短期記憶と長期記憶があるが、短期記憶は主にシナプスでの伝達効率の変化により、長期記憶はシナプス結合の数や形態の変化により達せられると考えられる。(朝日新聞デジタル コトバンク より引用)

Written by 小泉 加奈子