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白馬インターナショナルスクール(HIS)のプロジェクト型学習とタウンホールミーティング

「白馬インターナショナルスクール(以下HIS)の魅力とは?」ではHISの様子を、白馬という立地、立ち上げの背景、HIS流のプロジェクト型学習(PBL)や社会性と情動の学び(SEL)、将来のビジョンなどを取材させていただきました。今回は、HISで実践されている生活やプロジェクト型学習からの学びの様子をお届けします。(注:取材2022年11月の内容です)

  1. HIS流のプロジェクト型学習「愛」について

HISで実際に行われている、プロジェクト型学習(PBL)についてご紹介します。最近PBLについては様々な学校での導入が聞かれますが、HIS型のPBLとはどのような学びでしょうか?具体的な授業の様子を一例としてレポートします。

「愛」のプロジェクト

HISにて取材させていただいた際には「愛」をテーマとしたプロジェクトが実施されていました。個人的な感想ですが、自身を振り返って、中学並びに高校で「愛」をテーマにしたプロジェクト、考察、レポートやアートなどを実施したことがなく、まずテーマを伺って驚くと同時に、文学ではなく、多角的にテーマについて深掘りし、自らの意見を表現するという授業が中学校1年生から導入、実施されていることがとても印象的でした。

具体的な取り組みとしては、6週間の期間に、「愛」について様々な観点(脳神経科学、言語・文学やアートなど)から考えを深めるプロジェクトです。「愛」と聞くと例えば詩に出合ったり、感情であったりを考えてしまうかもしれませんが、「愛」という題材に対して、複数の視点から分析を深めていくプロジェクトです。

例えば、サイエンスの視点から、脳神経科学的に「愛」というのはどういうことなのか、どういう状態なのか、という授業があり、「愛」についての脳神伝達を研究するなどの授業もあります。ちなみに、私たちの見学日は、言語の観点から、自分にとって深く「愛」だと感じられる対象を考え、言葉や絵で「愛」が表現されている作品について探究し、自分ならではの「愛」についてのアートや言葉を用いた作品を使うというプロジェクトに取り組んでいました。

2時間半程の時間の大半は生徒の個人作業の時間です。ある生徒は、「愛」のテーマに関する様々な問いへの自分の考えを書き出して、詩のような作品をつくってポスターを作成することに取り組んでいたり、また別の生徒は、お母さんのテーマで詩かエッセイのような作品をつくっていました。このように「愛」というテーマを設定しても、個人によってアプローチは違い、また自由に何の視点からでもというよりも、カテゴリーを設定し、多角的に「愛」を考察することで、サイエンス視点で見る「愛」、言語の観点からみる「愛」、アートの視点からみる「愛」など深く考え、感じることができ、生徒自身にとって未詳の事態に関しても、考えを生み出すことができるアプローチが日々の学習に取り入れられていました。

HISで、ガイドと呼ばれる先生方は、実際に小中高のインターナショナルスクールだけではなく、元大学の先生もいらしたりと、様々な経験を通しての考察や深掘りを授業の開拓に活かされていて、新規校ではありますが、学びを深めるということを真摯に取り組んでる学校だと改めて感じました。

2. タウンホールミーティングによる対話

HISでは、学習面での先進性だけではなく、生活全般についても改善要綱があれば提案できる場があります。それがタウンホールミーティングです。FutureEdu 取材班では、実際にお邪魔にならないように、タウンホールの様子も直接拝見させていただきました。

学習面と生活面において、改善ポイントに関しては、話し合いたい議題は先生からだけでなく生徒からも数多く上がっていましたHISでは、先生が上、生徒が下という概念はなく、先生と生徒は対等な立場で話し合い、投票による多数決で意思決定がされており、民主主義を体感する話し合いの場となっています。取材させていただいた際には先生が議事進行をされていましたが、将来的には生徒による進行を考えているそうです。ちなみに、このタウンホールでは、却下されたとしても、また別の形で再提案することもでき、また決定されたことも時流にあわせて必要ではないと判断された場合には決議事項を変更することもできます。

実際に、取材させていただいた日の議題についてご紹介します。

  • 議題:土曜日の朝食時間について(生徒からの提案)

    提案の背景

    土曜日の朝食時間が8:30-9:00と短いので、終わりの時間を9:30か10時くらいまで延長してほしいという生徒からの要望。理由としては、普段忙しいので週末は少しゆっくり寝たいため。朝ご飯を出してくださっている方以外への影響がないので、変更による影響範囲が少ないだろうと考えたため。

    議論内容

    • 寮生のための昼食への準備に食堂が10時くらいから必要で、それまでに食堂がきれいになっていないといけないという状況を踏まえてどうするか?という課題提議があった。(先生)

    • 前任校ではブランチという朝昼を組み合わせるというやり方もあったというアイデアや、片付けなくてもよい、常にシリアルなどが置かれている軽食的な朝食コーナーという案もあるというアイデアも紹介。(先生)

    • また他の生徒からは、自分は8:30には食べたいので、朝ご飯がブランチになって、スタート時間が遅れるのは困るという指摘も。

    • 延長になった場合の食事の片付けや食べた当人のお皿の清掃はどうするのかという質問も。

    • 様々なアイデアや課題定義ののち、最終的に投票にかける議案をもう一度全体に話すように司会の先生から提案者に促しがある。

    結論

    最終議案は、"土曜日の朝ご飯の時間を8:30-9:00という現在の時間設定から9:30か10時くらいまでに延長したい。ただし、9時以降に食べた生徒は自分のお皿を清掃し、最後の生徒が食事も片付ける"。となり、実際に投票をしたところ、投票の結果今回は却下となった。


  • 議題:プロジェクトの時間について(生徒からの提案)

    議論内容

    • 先生からこの質問の意図を明確にする質問があった。実はこの提案は、先生が現在計画をして実施している2つのプロジェクトではなく、個人でテーマを設定してプロジェクトを実施したいという意見だということが判明した。

    • そこで、先生から、自習時間(ILT)をつかって実施するのであれば、グループプロジェクトとしてILTにこなすことになる宿題は、極力出さないようにするという話が出る。

    • 一方で、個人プロジェクトというのがどういうものなのかという定義があいまいだという指摘も出てくる。

    • よくわからないという人が多かった理由としては、個人プロジェクト自体は良いアイデアだが、すでに生徒のスケジュールが一杯な中で、どう負担が増えすぎない形で追加するのか、またプロジェクトはなんでも良いというわけでないと考えた時に、何をもって個人プロジェクトが成立すると判断するのかといった部分がまだまだ曖昧であるという意見がでた。

    結論

    • 最終議題としては、ILTの時間を活用して個人プロジェクトを実施する。その場合、グループプロジェクトからは宿題を出さないようにする。という案に。決議としては、賛成より、よくわからないという票と反対票が多く、今回は見送りに。

    • 別途より考えを深めてから個人プロジェクトについては再提案しようということで決着した。


このような形で、複数の様々な議案が出て、現在HISに関わっている先生・生徒を含めたディスカッションが時間をとって行われ、アイデアを出し、十分に話した上で全員が参加する形で意思決定がされていました。ちなみに、YESでもNOでもない場合には、棄権項目もありました。

このように、タウンホールミーティングにより、

  • 先生や生徒が同じ場所で学び、生活をする上で必要と思われることや新しいアイデアなどが共有されていて、学びそして話し合える場がある

  • 先生と生徒が対等であり、自身の意見を述べること、そして周囲と話し合うことの大切さが中学1年生から学び体感できる環境となっている。

という成果が得られていることを感じました。

3. アウトドア型学習


プロジェクト型学習やタウンホールに続き、アウトドア学習について簡単にご紹介します。

白馬というと、まさにアルプスに囲まれた自然あふれる場所、というイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。HISは年間5回自然の中でのキャンプを実施とのこと。年度はキャンプで始まり、キャンプで終わる。キャンプにより具体的な目標は異なるようですが、この白馬の大自然を存分に生かしながら、アウトドアのスキル向上(例:地図とコンパスでナビゲートする。キャンプ中は携帯を携行できるのは先生のみなど)だけでなく、生徒が仲間との関係性づくりを学んだり、自己についての認識を深めたり、環境に意識を向けられる、といった意図をもった活動が計画されています。

長年アウトドア教育にとり組まれてきたHISのマイク先生は「キャンプにはもう2度と行きたくないと言う生徒もいますがそんなことは気にしていません。多くの生徒は、アウトドア教育の意義やよさというのはかなり時間が経過してから感じます。以前20年前に教えた生徒から、当時は大嫌いだったけど、今となってみると学校で最も思い出深い経験だったと感謝されたこともあるんですよ。」というお話もお伺いできました。アウトドアに関しては、男女関係なく深く学び、楽しめる設計になっているようです。

本当の自然があるからこそ、HISには学びを深め共有し、新しい自分とコミュニテイに対する信頼も深まるのではないかと思います。

編集後記

日本で比較的一般的な学習を幼稚園、小学校、中学校そして高校と経験し、大学になって初めて「深く考える」「チームでアプローチする」ことを学んだ思考の開拓が遅咲きとなった私にとりまして、HISでの実施内容はとてもインパクトがありました。このような自ら「考える」ことに重きをおき、そして自分の周囲で起きていることを、社会的な課題と捉え、そして一人だけではなく、チームとして検討、実施そして運営をしていけるということを中学生から実践していける環境の素晴らしさを深く感じました。生成AIが話題になっている昨今、未来の教育を考える上で、考えるとは何か、自分とは何か、そして仲間とな何か、どのように課題を捉え、向き合っていけるのかについての学びの深さは、今からでも学び直したいと感じることが多くありました。