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アイデンティティの自由とは? Freedom of Identity - ミレニアム・スクールブログより

子どもから青年に移行する思春期の子どもたちの健やかな成長と発達に特化した「ラボ・スクール(実験校)」中学校ミレニアム・スクール (Millennium School) の校長先生、クリス・バーム氏によるブログの紹介第二弾は、アイデンティティの自由についてです。皆様の学校現場や学びの場面では、子どもたちが自らのペースでアイデンティティを探究する自由を与えられているでしょうか?4/28は東京レインボー・パレードの日ですが、学校でアイデンティティの自由が保障されることが当たり前になることで、様々な多様性を自然に受け入れる寛容な令和時代に入って欲しいものです。

アイデンティティの自由

学校がどのくらい健全かを測りたければ、生徒の「アイデンティティの自由」がどの程度あるかが良い指標になります。この指標は、学校内での社会性の仕組みや学業に対するマインドセットまで示唆し得るものです。

思春期の若者は、俳優が様々な役を試すように、 自分にぴったりするのがどんな役柄かを知るために、様々な場面で様々なキャラクターを演じてみる必要があります。社会の中で自分が何者かを見出すことは思春期の成長の核とも言える重要な要素ですが、その過程で、様々な役を演じてみることは必要不可欠な作業なのです。学校はこの作業を助けることも妨害することもできます。生徒が様々なアイデンティティを試すことができればできるほど、つまり、他人を傷つけない範囲で出来るだけ容易に、大ごとにならずにに色々な役柄を試したり自分のあり方を見つめたりすることができればできるほど、その生徒はより速くより健やかに 成長し、また、その学校の文化はより活気に溢れるものになるでしょう。

一定のアイデンティティを禁ずるような文化、例えば、同性愛者を認めない空気が蔓延していて、自分の性的嗜好が定まらない生徒に対し差別的な態度を許す文化があるような学校は、健全とは言えません。なぜなら、生徒の多くは自分のアイデンティティを探求することが許されていないと感じてしまうからです。このケースでは、自分が同性愛者かもしれないと思っている生徒は、そのことについて話せる相手も頼れるロールモデルも見つけられず、自分の基盤となるアイデンティティを探求しようとすると、自分を難しい立場に陥れることになるのです。生徒は、自分の本来のアイデンティティを抑制し、学校が認める人物になるべく自分を偽って、生涯消えない心の傷を負うことになるかもしれません。生徒が心を病めば、学校の文化の健全性や活気も失われていくのです。

多様性と公正さの問題を考慮することも必要です。ある生徒が少数派だった場合、例えば、教室で1人を除いて全員が白人だった場合などは、唯一の有色人種という事実がこの生徒のアイデンティティを抜きん出て確立してしまうため、この生徒が他のアイデンティティを探究する余地が限られてしまいます。このケースでは、この生徒の人種が集団の中で非常にわかりやすく目立ってしまうため、この生徒のアイデンティティは生徒が自分で探究する前に形成されてしまい周知されてしまうからです。この生徒自身がどうありたいかは二の次になってしまうのです。社会で受け入れられてしまっているステレオタイプも大きな問題で、その生徒が属するグループに共通する欠点があるという偏見がある場合、そうした偏見とも戦わなければなりません。このような状況にいる生徒たちは、常に決まった役を押し付けられる俳優のようです。自分が新しい役に挑戦したいと思っても、同じタイプの役柄しか回ってこないのです。

ここまで述べてきたことから最も伝えたい点は、子供達に自分のアイデンティティを探究する自由があればあるほど、子供達は心理的に健全に成長することができ、自分自身の内面を理解し受け入れてそれを表現することが出来るようになるということです。自分の内面を表現する能力は、大人になってからの幸福や成功と大きな関係があります。自分の内面をよく知り得なければ、何かをやり遂げる力も自分が本物だという思いもやる気も湧いてこないのです。生徒が本来の自分のアイデンティティを見出すことができ、それが社会に受け入れられていると感じる時、生徒は創造性を発揮し、自分からやる気を持って物事に取り組み、自信を持つことができ、不安は軽減されるのです。

では、親や教育者の仕事がアイデンティティの自由を作り出すことだとしたら、どうすればそれを達成できるのでしょうか。まず、真の意味での多様性(性格、内向的/外交的、趣味、家族構成、宗教、政治、人種など、あらゆる面での多様性)に溢れるグループを作ることです。また、アイデンティティを探究する物語を語り聞かせましょう。生徒が自分のアイデンティティについて何度も気が変わったとしても、驚いたり皮肉を言ったりせず、愛を持って長い目で見ることが大切です。私たち自身のちょっとかわったアイデンティティについて、例えば変な趣味なども含めて、生徒に共有し、大人になっても引き続きアイデンティティを探究し続けていることを教えてあげましょう。授業や課外活動で様々な探究のやり方があることを示し、教室やアドバイザーのいるグループでアイデンティティに関する振り返りの時間を設けましょう。生徒に、文学や映画や舞台に登場する多様な人物を紹介し、即興や劇やセリフを通じていろんな役割を演じたり変わりゆく真の自分を語ったりする機会を与えましょう。生徒が、ある友達がいつも正しいと感じたり、ある新聞が常に絶対的真実を伝えていると感じたりするなど、特定の権威に傾倒している時、世の中には他にも様々な考え方があるということを優しく教えてあげましょう。生徒に、同性愛者の権利獲得の歴史や現在その活動がどう展開されているかなど、表現の自由を勝ち取るために先人が戦ってきた歴史を教え、ありのままの自分を受け入れてもらうために多大な犠牲を払ってきた人々の功績を讃えましょう。生徒が誤ってあるいは意図的にヘイトスピーチをした時には強い態度で対応し、そうした行為がアイデンティティを探究する自由を阻害し、周りとの調和を強制するものであることを理解させましょう。この他にも、アイデンティティの自由を創出するやり方は色々考えられます。

まとめると、思春期の若者は、アイデンティティの探究を心から応援してくれる大人を必要としているのです。心を開いてアイデンティティ探究の意味を考え、時には気まずい思いをしながらも変わり続けるアイデンティティを見出す旅を応援してくれる大人が必要なのです。思春期の若者を生徒に持つ学校は、生徒が自分のアイデンティティ形成の途上にあること、そして、このアイデンティティ形成が脳科学的にも心理学的にも自然で且つ重要な発達過程であることを認識するべきです。生徒がアイデンティティ形成にうまく取り組めているか、自由にアイデンティティを探究出来る環境が整っているか、生徒が成長する過程で自分に特有の資質を明確に見極めることが出来ているか、といった要素は、学校が成功しているか否かを測る指標として重要です。我々は皆、自由でありたいし、自分自身でありたいし、人生で果たすべき役割を見つけたいのです。生徒にそのような生き方をする機会を与えたいならば、可能な限りアイデンティティの自由を保証することが重要なのです。

ミレニアム・スクール ( Millennium School ) 校長 クリス・バーム著 (2016年4月2日)/草本 朋子 翻訳

原文はこちら Growing Wiser Blog

*本記事は、クリス校長からの許諾の元、FutureEdu にて翻訳を行なっています

子ども達が安心安全な環境で自己を探究できる場づくりについて関心がある方は、ミレニアム・スクールでの実践を凝縮した2日間の研修への参加をご検討ください。長年中高生の教育に取り組んできたクリス校長を含む先生方との実践型研修です。7/31-8/1 は大阪で、8/5-6は東京で日本初開催です。欧米では、SEL (Social Emotional Learning 社会性と感情の学習)と呼ばれ研究や実践が進んでいます。日本では、ソーシャルスキルトレーニングと呼ばれることもあるようですが、プログラムとしての必要性の認知や実践はまだ限定的なようですが、子ども達の発達や文化的バックグラウンドなどの多様性が広がる今、必要性は増してきているといえるでしょう。

“社会性、感情や認知スキルは生涯を通じて成長し、学校や職場、家庭やコミュニティでの成功に必須となっています。これらのスキルがあることで、社会に意味のある形で貢献ができるのです。” アスペンインスティチュート社会性と情動の教育に関する2017年全国委員会

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