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モンテッソーリ教育の小学校と、日本の小学校の5つの大きな違いとは 〜 実体験レポート

モンテッソーリクラスルーム の様子 (注:我が子の学校ではありません)

モンテッソーリ教育というのは、日本では古くから多くの幼稚園に取り入れられ、今ではモンテッソーリ=幼児教育の1つと思ってらっしゃる方も多いのではないでしょうか?実は、私も我が子の転校を考えるまでは、それに近い印象を持っていました。おそらくその理由は、1:日本にモンテッソーリ教育を全日制で実施する小学校が非常に少ない(一方アメリカでは、モンテッソーリ教育の小学校中学校は合わせて354校あるそうです)、2:モンテッソーリ教育の事例紹介が幼稚園、保育園に集中している。(どうやら、モンテッソーリの幼稚園、保育園は東京だけでも90園以上あるようです。)、3:元々モンテッソーリ教育が幼児教育からスタートした、といったところなのではと思います。一方欧米では近年イノベーター教育として注目され、小学校から高校まで学校が増える一方、先生のトレーニングには時間がかかる為、先生不足の声もアメリカでは叫ばれているようです。

今回ご紹介するモンテッソーリ教育を始めとして、従来型ではない教育手法を総称して「オルナタティブ教育」と呼ばれていますが、真剣に既存の教育の枠組みから外れる事を考え無い限り、おそらくどんな手法があり、どんな学校があるのかという事は小学校のタイミングで調査される方は少ないのでは無いかと思います。(小学校受験での私学探しは別として)実際私もきっかけが無ければ知らなかったと思います。

といった中、最近時々「モンテッソーリの小学校ってどうなってるの?」というご質問をいただくので、転校してからの二学期間で学んだ私なりの比較論をご紹介します。それぞれの学校がユニークなので、学校細部に渡り数多くありますが、子供の生活にとって大きなポイントと、おそらくどこのモンテッソーリの学校に通ったとしても大きくは変わら無いポイントを中心に解説します。

赤ちゃんや幼児をお持ちの皆様、モンテッソーリの小学校ってどんな感じなの?ということに関心のある方に少しでも参考になれば幸いです!

1:時間割でなく、発達段階に合わせて準備をされた環境でのWork Time (ワークタイム)。教科書はなし。

モンテッソーリ教育では、こども、先生、そして発達段階に合わせて準備をされた環境の3つが、最適な学びに不可欠だと考えられています。登校時の朝会以降午前中の3時間は、子供達が自らワーク(モンテッソーリでは学びの活動をワークというそうです)する内容を基本的には決めて実行し、その内容をジャーナルに書き留めて内省するというスタイルになっています。その間は休憩時間とかも特に設けられてなく、発達段階に応じた学びを子供のペースで進めていく形です。この3時間のサイクルは、幼児から中学生まで同じのようです。ワークの内容は先生との相談の上ですし、幅広くあるモンテッソーリのレッスンプランの中から、先生がレッスンをする時間も設けられてはいます。特に低学年の間は、先生がレッスンを実施する時間が多くなっているようです。

まだまだ私も勉強中ですが、モンテッソーリのレッスンでは手を動かすことで脳の発達を促すことにとても重点がおかれています。幼児期では特に、世界を説明するための算数として、身体で数学感覚を身につける活動がとても丁寧に設計されています。また、Practical Life (実際の生活)に重点が置かれ、算数や言語力(一般の国語とは少し違います)、地理、歴史、理科、体育、図工、音楽といった教科学習以外にも、コミュニティサービス的な活動や、子供たちが学校の外で活動するプロジェクトなども準備されています。レッスンと自主活動のバランスは発達段階や子供によって違うようですが、子供たちが考えた活動は発達段階に応じた適切な活動である限りは先生たちがコーチ的に寄り添ってくださり、足りない部分をモンテッソーリのレッスンで補って下さっているようです。元々マイペースで興味関心の広い我が子にはとても合った学習環境だったようで、毎日楽しそうに通っています。

個別教科で幾つか気づいた違いを紹介します。言語力で面白い点として、読書グループがあります。平たく言うと読書会のようなものですが、同じ本を読んだグループで話し合うということも、グループレッスンとして取り入れられています。また、算数はハンズオンの教材が幼児期から豊富に用意されており、計算、図形、代数的な考え方が同時に身につけられるようになっている素晴らしい内容です。

良い点

最も素晴らしい点は、子供が本人で決めたことをワークしているという前提なので、モチベーションの高い学びの活動が行われています。また午前中3時間あるので、時間割で止められるなく興味の深掘りができます。例えば本を読んでいる子が、時間で先生から止められたりすることはありません。チーム活動を行う際には、プロジェクトのチームは自分たちで作るため、クラスメートの良いところを認め合って、プロジェクトを進める力がつきます。

(日本の学校に慣れていた親としては)心配な点

たまに学校を訪れてジャーナルを見たりしますが、基本的には子供の話を通じて、おぼろげながらに学校で行った事について知る感じです。もちろん、学期末の保護者面談や、ソーシャルなイベントを通じて先生と話す機会は豊富にありますが、普段細かく学校の事を話してくれ無い子供をもつ親としては、断片的に様子を知りながら日々の家庭の様子で判断しています。ただ、日本の学校に行っていた頃も、教科書は学校に置いてくる学校だったので、それほど大きな不安ではありません。とはいえ、学びの内容が日本の学校のように満遍なくかというと、そうではないかなとも思います。なので、そこは親としてもある程度の割り切りが必要かなと考えます。

余談ですが、一点転校を検討していた時に聞いたことですが、特に小学校高学年から初めてモンテソーリ教育に関わる場合、好奇心ややりたいことがあまり無いタイプのお子さんにとっては、このやり方はしんどい部分もあるようです。(好奇心は成長の元なので、どういった学校にも関わらずそこは育てたい点ではあるとは思いますが)

2:宿題がない

現在は、来年春の模擬国連に向けての準備で週1回のリサーチ課題がありますが、校長先生からも「宿題は家庭の不和を招くだけ」と面接時に伺ったとおり、宿題はゼロです。これは、モンテッソーリ教育の学校には共通しているようです。ただ、学校ではかなり集中した取り組みをしているので、家では家庭のワークなどより家族の中での役割を担うことで、社会への貢献や、コミュニケーション能力を育むなど、全人教育につなげる考え方なのかなと最近は捉えています。

良い点

我が子の場合、放課後に本人がかなりの時間をかけて打ち込んでいるスポーツがあるため、逆に宿題は睡眠時間を削る存在となっていました。反復練習のためにプリントをという気持ちもありますが、現在学校で学んでいることは、本人の興味があるときに、自ら考え身体を動かしながら学んでいるので、知識の定着は大きな心配事にはなっておりません。

(日本の学校に慣れていた親としては)心配な点

図形や立体、数の概念という点では、モンテッソーリ教育はとても素晴らしいと思います。一方計算と漢字という二点に関しては、宿題がないのは正直最初不安でした。(漢字の悩みはインターナショナルスクールに子供を入れる親共通の悩みですが)。しかしただ我が家は中学受験は視野に入れて無いため、社会で不自由しなければ良いと割り切り、計算はそろばんのお稽古、漢字については家庭学習としての読書と漢字ドリルの練習で補っています。そろばんはコンピューターの時代に古いと思われるかもしれませんが、頭の中にビジュアル的に数をイメージするトレーニングとしてそろばん=>暗算は今の時代にも有効だと考えて続けさせています。また、テストといった形での学力評価の無い学校なので、そろばんの級を目指すというのは、1つの良い目標になっているようです。

3:テストや相対評価の成績表が無い

以前の学校も、幸い成績表は相対評価ではなく自己申告制の絶対評価でした。ただ、ミニテストや、学期テストは学年が上がるにつれて、回数と頻度は増えていました。ミニテストは、記憶の定着に良いという脳科学研究の結果もあるそうですが、テストという形でなくても、口頭試問や発表作品など、違う形での定着を図ることはできるようです。

テストが一概に悪いとは思いませんが、テストに備えて勉強して終わったら忘れてもいいや、ではなく、あくまで学びを一定のタイミングで発表や作品という形で発表していくというやり方も十分効果的だなと感じています。

良い点

我が子にとって最もよかったのは、本人の自信が向上したということです。テストがあると、その度に子供なりにも自分はできたのか、それとも他の子に比べてダメだったのかという比較をします。毎回満点の子は誰だ、直しが多い子は誰だというのは、あっという間に子供達の間ではわかることで、上位10−20%にいない子供達は、多かれ少なかれ「私は、僕は勉強が得意ではない」という思いを抱くようになると思います。学びが絶対化している場合、どの子にも得意分野があり、相対評価の話題にはなりません。なので、全般的に自信のあるお子さんが多いように見受けます。

(日本の学校に慣れていた親としては)心配な点

競争心や好奇心が育っていないお子さんにとっては、テストのように数字をモチベーションにつなげる事も必要なのかもしれません。私自身は3年生から学習塾に通い、意に添わず中学受験もしたという典型的な日本女児でしたが、わかりやすいテストの点数を上げるというのは一種のゲーム感覚になり、学びの内容よりも点数をモチベーションの源としていた時代だったなぁと振り返ると思います。

4:3学年合同の少人数クラス

現在高学年では、28名の生徒が共に学んでいます。大抵1人から数名のグループで学んでいるので、10+箇所くらいに同時多発的に起こる学びの活動を、先生2名(専科除く)で巡回的にサポートしているというスタイルです。今までには先生がなかなか見つから無いなど、先生が足り無いという不満は聞いた事がないので、この人数比で機能しているようです。日本は35名まで1クラスという話を伝えると、「日本の学校の先生はすごい!」「そんなに先生のいう事を聞く子供達はすごい!」といったコメントを受けた事もあります。

また大きな特徴として、3学年が合同ということです。これは、モンテッソーリ教育の根幹でもある、6年毎の4つの成長のステージ(4 planes of development) かつ、ステージの半ばで成長の段階が変わるというところから生まれたそうです。成長のステージの前段階は非常に変化が激しく、後半の3年間は落ち着くというのが24歳までに4度訪れるそうです。確かに自分の体験でもしっくりきます。この仕組みの良いところは、年齢の低いお子さんは、上のお子さん達という身近なロールモデルと一緒に学べる上、上のお子さん達は、年下の子に教えることで、学びをより定着させていく効果やコミュニケーション能力を向上するというメリットがあるそうです。また子供によって得意不得意があるので、必ずしも年齢という切り口ではないですが、よりロングスパンで子供達の成長を捉えることができるというメリットもあります。我が子の場合、よく一緒に活動するお子さんたちは、日本の学校でいうと4年生と6年生、そして彼が5年生なので、まさにミックスです。お互いに異なった良い部分を寄せ合いながら、教えられたり教えたりしているようです。

Four Planes of Development by Matria Montessori source: www.LiveAndLearnFarm.com

良い点

学校で Compassion (思いやり)が重視されているということや、子供達が全般的にハッピーということもあり、クラスで大きないざこざが起きることは無い様です。日本の一般的な学校ではイジメのネタになりやすい様な外見的な特徴などについても、インターナショナルスクールでそもそも多様ということと、定期的に子供達の入れ替わりがあるためか、あまり問題となることは無い様です。

(日本の学校に慣れていた親としては)心配な点

転校前に2つ心配だったのは、1、社会の縮図としてはあまりに人数が少なくないか?、2、1クラスしかない高学年で、万が一いざこざがあったら子供達の居場所はどうなるんだろう?ということでした。1については、子供時代は狭くて深い付き合いで構わないし、学校外でも友達がいるので、必ずしも接点のある友達の数が激減するわけではないと考え今は特に心配してません。2つ目については、杞憂でした。そもそもモンテッソーリの学校ではお互いの事を考えるという事が徹底されている一方、子供達がみな自分の選んだ学びの活動を学校内で行っているので、さほど比較してどう思うというイジメ的な考えになりづらいし、子供達の心が満たされているのでイジメになりづらいと分かりました。インターナショナルスクールで、様々な時期に様々なお子さんが入っては出るというのも、いじめが起きにくい要因のようにも思えますが、他のインターナショナルスクールでは、"No Bullying(いじめ厳禁)" と大きくサインが出ていたのも見た事があるので、一概にも生徒の多様性が要因ではないようです。

5:学校に大きな施設は持たない

日本だと政府から認められた学校になるためには、かなり大規模な設備を準備することが必要です。前の学校では、音楽室、図工室、温水プール、体育館など、非常に充実した設備があり、正直小学校を最初に検討していた頃には、設備も魅力の要素として私の目には映っていました。

確かに立派な音楽室で子供達が歌うと本当に素敵ですし、昼休みに体育館に遊びに行けるのはとても活動領域を広げるためにはありがたい話です。今の学校は小さな図書室、音楽室とアートルームは教室以外にもありますが、校庭はちいさなお庭のみです。その代わり、体育は外の施設で行ったり、昼休みには、歩いて2−3分の公園に毎日のように出かけています。また、近くのインターナショナルスクールとの合同体育的な課外活動も時々あります。人数が少ないからこそこのような形で運営ができるわけですが、子供の学習満足度と施設の立派さは、小学校の段階では大きな相関関係はない様です。

さいごにおまけ。

 

その1:今なぜモンテッソーリ教育が世界で注目されているのか?

モンテッソーリ教育は生誕100年を超えているそうですが、昨今米国ではイノベーター教育として話題になり、小学校の数は増え続けています。アジアでは、創始者のマリア モンテソーリが第二次世界大戦中に国外退去を命じられ居住していたインドでも、モンテッソーリ教育はとても人気があるそうです。 トニー ワグナー氏の「未来のイノベーターはどう育つのか」では、成功している若者達を調べた結果、モンテッソーリ教育を受けた子供達が多かったと書かれています。アメリカでは、モンテッソーリの小学校は急増しており、高校まで設立がされています。

ウォール・ストリート・ジャーナルでも、モンテッソーリマフィアについての記事がありましたが、昨今Amazon.comのCEO、ジェフ・ベゾスや、グーグルの創始者である、ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリン(Google創立者)、ピーター・ドラッカーなどもモンテッソーリ教育を受けていたということで評価がぐんと上がったようにも見受けます。また芸術方面でも、テイラー・スイフト、ビヨンセもモンテッソーリ教育を受けていたそうです。そして驚くことに、発明家のトマス・エジソンもモンテッソーリ教育の学校を設立したいたのだとか!一方でモンテッソーリ教育は日本では幼児教育卒業後実施している教育機関が少ないため、まだまだ知られていないようです。(追記:最近は藤井四段がモンテッソーリ教育を受けていたということで日本でも注目が集まり始めているようですね。

こちらのビデオを見ると幼少一貫校の様子がよくわかるので、ご覧ください。

 

その2:プログラミング教育やIT教育はどうなの?

教室には数台コンピューターがあり、子供達には全員学校が発行するグーグルのアカウントが与えられます。好きな子供達は、ロボットを使ったりもしますが、基本的にはパソコンは、調査とプレゼン作成に使われるのがメインです。特にみんながいつもパソコンを使いたがることもなく、必要に応じて各自の判断で使っているという様子です。算数やプログラミングでは、Kahn Academy がよく使われている様ですが、どちらかというと教具も含め、身体を使うハンズオンな学びが多く、学校も小学生にはその経験が大切だと考えていると実感しています。

また親と学校とのコミュニケーションは、すべて学内ポータルや、イベントや会へのサインアップのサイトで完結しています。紙の配布物に慣れていた私は、最初の頃見逃して大変な思いをしたこともあるのですが、今ではペーパーレスで、いつでも情報音確認ができる環境を重宝しています。

以上が、半年のモンテッソーリ小学校の経験を通じて体感した主な違いについてのポイントです。どのようなお子様にもいい教育だとは思いますが、すべての親御さんには合わない教育手法かもしれません。ただこれからは、自主的にまなび、プロジェクトを率いる力を育てることはとても大切だと思います。ご家庭の学習環境を考える際に、少しでも我が家の体験談が参考になれば幸いです!

 

最近友達と合同で作ったレースコース。本で見たことからインスピレーションを受け、気が付いたらうちから色々持っていって作っていたようです。実は、しかけに LittleBits も使ったりしてます。ロボットやリモコンを使って、タイム競争をして遊んでいたようです。

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