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(新連載)家庭にリベラルアーツのエッセンスを Day1 ~ なぜリベラルアーツ?

はじめまして。一般社団法人ダイアローグ・ラーニング代表理事の井上真祈子です。

以前、 ”年末年始に読みたい!「学び」に関する本14冊の選書” で関わらせて頂きましたが、このたび家庭にリベラルアーツのエッセンスを」という私がとても大切にしているテーマで連載させて頂きます。

私はこれまで約6年間、仲間とともに、「子ども時代からのリベラルアーツCo-musubi」というラーニングコミュニティを運営して参りました。Co-musubiには現在小学1年生から高校1年生までの子どもたちとその保護者の皆さまが所属しており、私は、対話とリベラルアーツの学びがそれぞれ日常化するお手伝いをしております。

子どもたちの成長と共に、彼らがものごとを自分に引き寄せて考え、自分のことばで他者へまっすぐに伝え、自分の道を悩みながらも勇気を出して切り拓く姿に、多くの方々から感動と驚きのお声をいただくようになりました。本連載は、これまでさまざまなご家庭に寄り添ってきた経験を活かし、未就学から中学校に入学する前までの年齢の保護者の皆さまの子育てに役立てて頂ける内容となっています。子育てには不安はつきものですが、その子が持って生まれてきた魅力を大切にすることで、子どもが自分の人生の羅針盤を手に自立する子育てのお手伝いができることを願い執筆して参ります。

これからどうぞ、よろしくお願い申し上げます。

第1章 どうしてリベラルアーツ?

1)自由の獲得

早速ですが「リベラルアーツ」とはどのような意味なのでしょうか?日本では、リベラルアーツは「教養」と訳されることが多いのですが、本来の意味としては「自由になるための技術」を意味します。

自由という言葉は、福沢諭吉が Liberty を「自らをもって由となす」と訳したのがそのはじまりだそうです。自由とは、他人に与えられるものではない、自分の意志で自分を理由として行動できることだ、という意味です。

その自由は、「自分の好きなことだけの中に閉じこもっている状態」ではなく、自由に伴って発生する責任(リスク)も抱えながら、自分を信じて挑戦・行動していくものです。

一人ひとりが「自分の意志で自分を理由として行動できる」ことを目的として成長できるよう、家庭での親子の幸福な関わりや、日常にあふれるワンダー(不思議に思うこと、驚き目を見開くようなこと)に気づくきっかけをご提案して参ります。

2)精神的な自立

子育ての最終的な目標は、我が子が「自立」することでしょう。

生きていくために自分で立つ。その巣立ちの日まで、生まれたその瞬間から、初めて自分の肺で呼吸をするために大きな声で泣き、ある日突然に二本の足で立ち、そうやって連続的、時には非連続的なステップを経てゆっくりと成長していくのが私たち人間です。

生命の誕生という奇跡のような瞬間を目の当たりにし、人の成長の尊さに感動し、ますます「可愛くて仕方がない」と、愛情ゆえに、我が子のためにできることはなんでもしてあげたくなるのが親というものかもしれません。

我が子の進む道を舗装し、転ばぬように異物を先に避けてあげ、望むものは与えてあげたい。

しかし、それではいつまで経っても子どもは自立のための練習ができません。

精神的な自立を促す子育ての工夫

一方完璧な家事や子育てよりも、少し手を抜いて作り出した日々の5分間で、我が子がボタンをとめるのを、どこからならばちょっと頑張れば自分でできるのかを観察することで、その観察を活かして翌日には「ここから先は自分でやってみたい」という挑戦を待つことができます。

お友達と砂場で遊んでいる時に、道具の取り合いで喧嘩になるのを防ぎたいがために、人数分のバケツやスコップを用意したくなりますが、あえて「足りない」を作り出すことで、子どもたちが譲り合って道具を使う社会性を身につける練習の機会をつくることもできます。

取り合いをはじめたら喧嘩をやめるよう指示するのではなく、「どうしたらお互いに楽しく遊べると思う?」と問いかけ、子どもたちが自分たちで解決できる力を信じて待ってみてください。

また、自分で「やりたい」と思ったときに、依頼する必要なく自ら本やブロック、お絵描きの道具などを棚から取り出し取り組めるよう、子どもの手の届く高さの位置に整理しておくと、自己選択と行動の習慣が身につきます。

そのためにも、小さな頃から習い事などで時間を埋めるのではなく、余白時間を意図的に生活の中に取り込めるのが理想です。

小学生の自習も同じです。

「やりなさい」と指示するのではなく、最初は10分間から徐々に20~30分間程度に伸ばしながら、短い時間で一緒に取り組む時間を毎日のルーティンとしてスケジュールし「環境」として設定しておくのがおすすめです。

お互いに「ちょっと背伸びをしたら届く目標」を自ら設定し、集中して目標達成を目指します。保護者は、その時間を自らの学びや残った仕事を少しでも進める時間に利用すればいいのです。

精神的な自立とは、自分の行動を誰かの意思に委ねず、自分の責任で決め行動し、弱い自分も含め認め、他者と共に協力して生きていける状態のことです。

卵が先か鶏が先かではありますが、「自分の意思で、自分を理由として行動できる」意味としての「自由」を子どもが獲得するためには、精神的な自立が育まれる環境と子どもの自己選択を尊重する親の関わりの両輪が必要です

未就学児のうちから「自己選択と行動」のセット、「自分でできた」という小さな達成感、そして他者との平和な協働の経験を、日常の中でできる範囲で少しずつ環境として用意していけると、自然と子どもの意識が育っていきますし、大人も我が子と共に育つことができます。

よい模範的な親でいたい、そのために家事も育児も、そして仕事も完璧にこなしたい。

我が子のために身を削って頑張ってしまいますが、完璧を目指す方こそ、どうか「理想の65%」できたら十分すごい!とご自身、そしてパートナーとお互いを認め拍手し合ってください。

次回は、第1章どうしてリベラルアーツ?の続き

・しあわせってなんだろう?

について紹介します。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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コントリビューター

井上 真祈子 | Makiko Inoue

一般社団法人ダイアローグ・ラーニング代表理事

薬学部卒。高校1年生と大学2年生の姉妹の母。プライベートでは、子どもの発達段階を考慮し国内外を移住しながらの子育てを実践。東日本大震災を機に家庭教育支援をはじめる。子ども時代からのリベラルアーツ「Co-musubi」と偶発性ある読書会「セレンディピティ・ブックス・ダイアローグ」が主な事業。多様な子どもへの理解を深める啓発活動や、さまざまな業界のパラダイムシフト支援もライフワークとし、2019年経産省や2020年文科省のギフテッド教育研修コーディネーター、2019年、2020年Learn by Creationワークショップチームリード、2021年~日本型リベラルアーツ推進委員、企業による学校授業制作カウンセリング、2022年〜女性医療人のリーダーシップラーニングコミュニティ創設など、多岐にわたり活動している。