Future Edu Tokyo

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年末のご挨拶 ~ 今年一年を振り返って

2016年に子ども達の学びの選択肢を共に考えたいという思いで吉川と立ち上げた有志団体の FutureEdu も、一般社団法人として活動を始め1年が過ぎました。団体にしたいという強い意思があったというよりは、自然な流れで団体として活動をした方が色々な方々と協働しやすいという判断からでした。その思い切りが功を奏したのか、2019 年は、国内外の多くの教育者、保護者、教育に関心のある大人、学生さんと「これからの時代の学びとは?」という問いに向き合う機会を頂きました。全国各地で子どもや地域、そして自分自身のために立ちられている素敵な皆さまとの出会いに心から感謝です。

我々のミッションは「これからの時代の学びの選択肢を共に考える」メディアとコミュニティの運営ですが、その中でも Most Likely to Succeed の上映+対話会の普及が活動の柱として大きくなった1年でした。開催の主体も広がり、一般の上映会や学校主催だけでなく、教育委員会や自治体主催の上映会も始まっています。長野県や広島県などでは県の教育委員会が主催する上映会もあり、市町村単位での上映も沖縄県の浦添市や兵庫県の南あわじ市などで実施されています。沖縄県では、1万人上映プロジェクトも立ち上がっているようです。

長野県主催の Most Likely to Succeed 上映会 + パネルディスカッションの様子

Most Likely to Succeed 上映会での作品への評価 (n=1487)

出典:一社)FutureEdu Most Likely to Succeed 上映会参加者アンケートより

3年半前に、日本語の情報や字幕の無い状況から始まった上映会ですが、日本語字幕化を実現しアンバサダーとして日本の上映会希望者の皆様をサポートさせて頂く中で、希望と課題を目の当たりにする1年でもありました。嬉しいニュースとしては、Most Likely to Succeed の上映+対話の輪はほぼ全都道府県(来年の2月には44都道府県)に広がり、今年度一杯に全都道府県の目標までは達成できませんでしたが、42都道府県、400回以上の開催実績*となりました。日本語字幕化から2年の間に1万人以上の子どもや大人が、未来の学びについて真剣に考え対話する場が生まれたのは、作品の持つパワーであると共に、地域の皆さまの真摯なエネルギーそのものだと思います。対話を含めると通常3時間以上のイベントとなる上映会が全国に広がる結果となった背景には、時代の転換期を迎えた日本のこれからを支える学びや学校教育について考えたいというへの関心の高さを感じます。一方で、全国各地でのお話を伺う中で、都心や田舎に関わらず、戦後から作り上げあれた強固な教育システムの変革の難しさへの手詰まり感を再確認する年となりました。

また、正解の無い問いにも向き合うことが求められている時代に新たな「正解」を提示しない事を心がけた上映会活動を続けてくる中で、良い問いをたてる難しさを学びました。ディスカッションの肝となる問いの設定次第で、対話を誘導する可能性もありますし、共感して参加してもらえないリスクもあります。同じ作品でも観る人によって感じ方は千差万別。その多様性を浮き彫りだし、尚且つ本質的なテーマで前向きな対話をする場づくりが、上映会の有無に関わらず大切です。先生が教えるからファシリテーターへと言われていますが、対話の場を準備することは、これからの授業の姿に近いのではないかと思います。

今年、経済産業省の「未来の教室」の支援を皮切りに開催させて頂いた、ハイ・テック・ハイ(映画の舞台の学校)の先生と共に学ぶプロジェクト型研修(PBL研修)では、カリキュラムデザインに取り組む先生方が、短期間の間に素晴らしいプロトタイプを作ったり、建設的な批判を与え合うことに慣れていらっしゃる姿はとても希望に満ちたものでした。夏にミレニアムスクールの先生方と実施した** SEL (社会と情動性の教育)の研修では、安心安全な場を小中高で作ることはできるが、そのためには先生方のマインドや実践がSELを意識したものになる必要がある事も明確になりました。SELに関しては日本でも協会が始まったり胎動がありますが、まだまだ一般的には知られていない言葉や概念だと思います。教室がカリキュラム主体から、学びに向かう場づくりという考え方にシフトしていくと、来年度からの新学習指導要領が目指す「主体的で対話的で深い学び」結果的にに近づいていくことでしょう。

ミレニアム・スクール SEL 研修での様子


そして、最近良く参加者の皆さんに「自分はクリエイティブだと思う?」という質問を投げかけているのですが、謙虚な日本人の特徴か、殆どの方が手を上げられないのが気になっています。自分自身もビジネスや戦略、マーケティングという仕事が多い中で、クリエイティブという表現で自分を捉えるのはプロの方に申し訳ないという気持ちを持っていた頃もありました。しかし実際にはクリエイティブな気持ちということは、新しいことに挑戦し、有形無形に関わらず自分の頭をフル回転させながら何かを創ってみることであり、日常のお料理や掃除も、何か気になった事を解決するために新しいことに挑戦してみたり、今までと違うアプローチで取り組んでみることもクリエイティブなプロセスだと言えます。

「これからの時代は、情報社会から創造社会に移行するる」と、慶応義塾大学の井庭先生が著書「クリエイティブ ラーニング」で述べられていますが、私は日常のちょっとした気付き、トライアルが重なりうことで、徐々に大きな挑戦につながり、結果的に自分でも認識ができるクリエイティブな力も鍛えられると考えています。自分自身の経験を振り返っても、インターネット業界で新しいサービスをつくったり、提携を結んだりという無から有を生む経験の積み重ねがあり、会社や団体を設立するということにもチャレンジできる様になりました。また今年は新たな挑戦として、「創る」から学ぶを体感し、自分のものにしていく事を通じて新たな学びの文化を創造するイベント、Learn X Creation を別団体を通じて主催することになりました。**去年の今頃は1ページの企画書だったアイデアから、2日間に2500名の方が集う場が生まれたのは、「これからの学びをより大人にも子どもにも創造的でワクワクしたものに」と考える多くの皆様の力が結集した結果だと思います。一人一人でできることは限られているかもしれませんが、当事者意識のある皆様が、新たな学びのビジョンに向かうことが生み出すポジティブなアクションが日本中に溢れると、より連鎖反応的に学びがより豊かになっていくと感じています。実際に全国で素晴らしい活動に取り組まれる多くの方々とお目にかかり、FutureEdu としては連鎖反応がより起こりやすい状況をどう育めるかというテーマにも取り組んでいきたいと考えています。

Learn X Creation のシンポジウムの様子

Learn X Creation のハッカソンの様子。これからの授業案について、教員、クリエイター、社会人などが合同で考えました。実際2つの授業が年内にスタートしています。

振り返ると、今年の一年を通じて、子ども達にクリエイティビティを求めるのではなく、「大人も子どもも共にクリエイティブなプロセスを楽しめる社会や学校現場、家庭が増えること。」これこそが日本の教育改革の礎になっていくと思う一年でした。

来年も微力ながら、共に学び、考え、議論する場を主催したり、サポートしていく所存です。

政策的な対応が必要な事も多くあると思いますが、個人やコミュニティ、地域に合った学びは中央集権的に編み出せるものではありません。我々一人一人の考えや動きを重ね合わせ、学内外の大人が連携し、子ども達の意見も大切にしながら地域や家庭に合った学びを考えていきたいですね。

それでは、来年度も FutureEdu 共々よろしくお願いいたします。

より幸せな一年に我々一人一人が向かっていける事を祈って

一般社団法人 FutureEdu 代表

竹村 詠美

* 上映開催数については、FutureEdu が開催、共催、開催支援をした実績からの推計値

** これらの研修やイベントは、共同代表を務める一般社団法人SOLLAが運営主体となっています