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事前準備ゼロで、楽しめる読書会。アクティブ・ブック・ダイアローグ (ABD) という新しい学びの形

読書の秋といえども、年間8万冊以上の本が出版される日本では読みたい本は溜まっていくばかりです。

一方で「本を一人で読むのは苦手」という方もいれば、「子供達にもっと本に親しみを持って欲しい」という親御さんや先生方もいらっしゃるかと思います。

今日は、そんな悩みの解決の救世主と言っても過言でない、ソーシャルに読書を楽しむ手法、アクティブブックダイアローグ(ABD)についてご紹介します。

「サピエンス全史」が世界を席巻したユヴァル・ノア・ハラリ氏による新刊、「ホモデウス」の翻訳書が先日発売されていたのですが、「読みたいけど上下巻読むのは大変だなぁ」と尻ごみしておりました。そんな中で、ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)代表の藤村さんがABDイベントを開催されると聞き、待ってましたとばかりの気持ちで参加してきました。平日の午前中に、他の予定を調整して集まったメンバーということで、非常に濃い会でしたが、多様性のある議論を引き出す手法としてABDは非常に素晴らしいと改めて感じさせられるひと時でもありました。

ABDというイベントは果たして何なのか?私も初回参加するまでいまひとつピンときませんでした。

本日は、プロセスと読後感を含めたイベントレポート形式で、ABD の魅力についてお伝えします。

はじめに

当日集まると、無残にも章ごとにバラバラになった「ホモデウス」が待ってました。最初の20分ほど使って全員がチェックイン(自己紹介と、その時の気持ちをシェアする)をした後、自分の読みたい章を選びます。

モデレーターの大田氏から、流れの説明があり、そのあと自己紹介を含めたチェックインに

大田氏による、会の流れの説明とチェックイン(素敵な会場はこちら: Shibaura House http://www.shibaurahouse.jp )

撮影:主催者藤村氏

上の2枚の写真撮影: SVP Tokyo 藤村氏

準備ができたら

自分の取り組みたい章を選んだあとは、一人での読書と要約タイム!

今回は1時間を渡され、各々集中しやすい場所に散り、ひたすら読み込み、5-6ページのサマリーを作りました。Shibaura House さんの光に溢れ、クリエイティブな雰囲気のスペースは、集中するに最高の環境でした!

私は幸い27ページの章でしたが、人によっては90ページの章を引き受けられた方も。そこで感じなのは、最初から最後まで全てをじっくり読むことではなく、それぞれの参加者が「気になる!」と思ったエリアに集中してサマリーを作ることも構わないということです。そういった偏りも、多様な人の観点を学ぶ貴重なチャンスです。

いよいよシェアリングの時間

個別のサマリーづくりが終わったら、いよいよ発表とディスカッションの時間です。

壁一面に貼られたサマリーを見て感激をしているもつかの間。1人3分の各章の発表の時間です。

私は第4章の、「ホモ・サピエンスが世界に意味を与える」を担当させていただいたのですが、虚構(ストーリー)の持つ力が人間が集団で活動するエネルギーとなっており、その力は、主観や目の前の環境から感じることよりもパワーがあるということを歴史的な背景を含めて痛感しました。近年私が長年関わっているマーケティングの分野でも、「ストーリー」の大切さが見直されていますが、紀元前から人間は意外と変わっていないことが分かります。 全員の発表が終わった後は、30分ほど、人間の進化など、大きなトピックについて、問いかけも含めた質の高い議論が交わされました。

最後に今回の発表で、個人的に(意訳含む)心に残ったポイントをいくつか紹介します。

1)今までの時代の世界の関心事は飢餓、疫病、戦争だったが、これからは、不死、幸福の追求、神へのアップデートという3つが関心事高となる

2)虚構(ストーリー)の方が、主観的な感情や、木、岩、川、の様子よりもパワフルで、虚構があることで、エジプトのピラミッドの建設含め、人間が集団としてパワーを発揮することができている。一方で、虚構がパワフルになりすぎると、官僚制度や教育システムのように、肥大化した巨大システムを制御することが困難になるので、苦しみの声(現実)にも耳を傾けることが大切。

3)知識の拠り所が変遷している。中世は、聖書と論理の時代、近代は、データと数学の時代、そして近代は、経験と感性の時代。

4)テクノロジーによる知能の飛躍的発達は、知能が意識と比べて肥大化することを促す。人間が頂点であった時代は終わり、新しい何かが始まるのではないか?(意識がテクノロジーによってアップデートされた人間という意味も含めて)

5)外部知能が生活を制御するようになり(例:自動運転、身体のバイタルサイン計測による健康管理)、アルゴリズムにより人間の生活が営まれるときがきたときに、意識には果たして価値があるのか?

10名の発表が終了する前から始まりかけていたディスカッションは、30分では時間が十分とは言えませんでしたが、この対話を通じて、参加者の経験を踏まえた疑問やアイデア、意見のやりとりが行われ、著作に対する理解と思いが深まりました。時間はかかるかもしれませんが、残りの章も自ら読んでみたいと感じるABDでした。ディスカッションで問いが見えてきた今、改めて自分で残りを読んで、しっかり理解したいなと思います。

これからABDを開催する方へ

ABDに参加するのは3回目になるのですが、数名から50名位まで、人数に関わらず楽しめました。おそらく人数というよりは、どれだけ課題図書に関心や、多様な知見のある人が集まるかが、参加の満足度には影響するのではないかと思います。

担当する箇所によっては、本の最後の方で、前後の文脈がわからず迷うこともありますが、最後の発表で全てが繋がった時の感動も含めて楽しもうという気持ちで取り組んで頂ければと思います。 実は私が前回参加した時の課題書は数式がたくさんある本で、一瞬ひるみましたが、わからないところはすっ飛ばすという覚悟で要約してみたら、最後にはグループの中で整合性が取れてホッとしたこともあります。そういった部分も含めて楽しめるといいですね。
また、大勢で実施されたときには、グループに分かれ、グループ毎に、担当の章をさらに分担しつつ、途中で雑談や議論もしながらサマリーを作るという、ソーシャル性が高まった方法もありました。企画される際には、参加して欲しい人たちをイメージしながら、組み立てを工夫されるときっと良い会になると思います。

子供達も楽しめるのか?

さて、このABDは、お子さんにも学校などで是非取り組んでみて貰いたいアクティブな学びのスタイルです。

21世紀スキルとしてもあげられる、コミュニケーション能力、コラボレーション、批判的思考能力が同時に培われますし、何よりも多様な意見の中で、自分の本に対する感じ方と異なる多様性を体感できるととても良い機会になります。

興味は湧いてきましたか?

気になる方は、アクティブ・ブック・ダイアローグ協会さんが、会の主催方法についてガイドを出してくださってますので、こちらからご覧ください。http://www.abd-abd.com/ (公式サイト)

http://www.abd-abd.com/#6 (無料マニュアルのダウンロードページ)

アクティブ・ブック・ダイアローグ協会の公式サイト

若者の本離れが進んでいると言われて久しいですが、ABDに限らず、色々な新しい形が広がる事で、最もアクセスしやすい方法で世界の叡智や感動に触れることができる本というメディアに親しむ人が増えるといいですね。

by Emi Takemura (FutureEdu Co-Founder)