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オランダで普及している「イエナプラン」教育から学ぶ、21世紀にふさわしい全人教育の形

今年新しく開校したイエナプラン学校の様子 (Photo credit:  deSwollenaer.nl )

先月「日本イエナプラン教育協会千葉支部」と「こんな学校にしたい会」の共催で開かれた、『イエナプラン』についてのドキュメンタリー映画「明日の学校に向かって オランダイエナプラン教育に学ぶ」の上映会に参加しました。『イエナプラン』とは、ドイツで生まれ、オランダで普及しているオルナタティブ教育です。自分で考え、共感力をもち、社会にはたらきかけ、協働できる市民を育てる教育という考え方にとても共感しました。あるイエナプランの先生の表現では「幸せな大人を育てる教育」を目指しているのだそうです。今日はセミナーでの学びを元に、イエナプランについてご紹介したいと思います。

■ イエナプランの生い立ちと現状

イエナプランは、1924年、ドイツにあるイエナ大学の教育学者、ペーター・ペーターゼンが同大学の実験校で始めた教育モデルです。このイエナプランを積極的に取り入れ、発祥国のドイツを遥かに凌ぐ勢いで発展しているのがオランダです。オランダは憲法で教育の自由を保障しているため、他国の教育手法であっても自由に取り入れることができます。そうした背景もあり、1960年代に初めてイエナプラン校が設立されて以来、急速に普及してきました。現在オランダにある学校のうち10%がオルタナティブ教育を実施しており、そのうち約3割に該当する200校近く(オランダ全体の3%に相当)が、イエナプランを取り入れています。

ところでどうしてオランダでは、イエナプランが普及したのでしょうか。それは、歴史的背景が関係しています。

戦後、オランダ市民は自ら行動して社会を作っていきたいと、新しい時代の市民教育としてイエナプランを取り入れ、発展してきました。そのため、「幸福な民主主義に参加する市民を育てるための教育のあり方」という視点が強調されています。

実際オランダでは市民運動により原発建設案を廃止したり(日本では原発を推進した時代と同時期)、早い時期から働き方改革が行われることで、フルタイムの就業の人もそうでない人も同じ権利が与えられる高福祉社会を実現したりと、多くの市民活動が行われてきました。税率は高いものの、福祉が充実しているので国が市民の面倒を見てくれるという安心感もあり、世界の中でも最も幸福度が高い国の一つとして知られています。(*2014-2016年の世界幸福度ランキングで6位。VS 日本は51位)

イエナプラン学校での生徒によるプレゼンテーションの様子 (Photo Credit:  Jenaplanschool De Bijenkorf)

■ イエナプラン教育の特徴

イエナプランは、自分の良さや弱みを知るだけでなく、他者の良さを認め、社会で協働して積極的に活動できる大人を育てるという狙いが非常に強くあります。ですから、生徒が障害を持つ持たないに関わらず、皆んなが同じ環境で協力しながら学びの生活を送ることを基本としています。 一口にイエナプランを採用していると言っても、学校ごとの裁量権が多いオランダでは、各校でさまざまな工夫をしていたり、また通常校でもイエナプランの考え方を一部取り入れているところもあったりと、どの学校にもそれぞれ個性が見られます。

ここでもう少し、イエナプラン教育の特徴を掘り下げてみましょう。(以下、Wikipediaより)  

1.    異年齢のクラス編成

学級は異年齢の子どもたちによって構成される。通常、3学年にわたる子どもたち、例外的に2学年にわたる子どもたちの場合もある。学級は『根幹グループ(ファミリー・グループ)』と呼ばれ、学級担任の教員は『グループ・リーダー』と呼ばれる。毎年新学年になるごとに、年長の子どもたちが次のグループに進学し、新しく年少の子どもたちがグループに参加する。原則として、グループ・リーダーは交替しない。

2.    4つの基本活動

学校での活動は、会話・遊び・仕事(学習)・催しという4つの基本活動を循環的に 行う。会話はサークルを作ってグループ・リーダーも生徒と共に参加して行われる(サークル対話)。遊びは企画されたもの、自由遊びなど様々な形態が用いられる。仕事(学習)は、自立学習と共同学習の2種類がある。催しは、週のはじめの会、週の終りの会、特別の年中行事、教員や生徒の誕生日などで、喜怒哀楽の感情を共有して学校における共同体意識を育てることに目的が置かれている。また、この4つの活動を循環的に行うために、時間割は教科別で作られず、4つの活動のリズミックな交替をもとにして作られる。

3.    生と仕事の場としての学校。

学校は、子どもと教員と保護者とからなる共同体と みなし、子どもが大半の時間を過ごす場として、リビングルームとしての環境づくりを強調する。

(編集部注:リビングルームというと、リラックス=遊びと言ったイメージもあるかもしれませんが、イエナプランでは、教員と生徒がグループとして、学びやすい環境を自ら整えていくという共同生活の場という意味合いが大きいと感じました)

4.    学校教育の中核としてのワールドオリエンテーション。

社会と理科といった教科別の学習をつなぎ、それに基づいて『学ぶことを学ぶ』ために設けられた総合的な学習の時間が尊重される。

5.    健常児も障害児も共にまなぶ

インクルーシブな教育を目指し、生徒集団を、可能な限り生の社会の反映として とらえ構成しようとする。そのために、早い時期から、特別のニーズを持つ障害児らの入学を積極的に認めてきた。

(※イエナプラン教育のより詳細は、日本イエナプラン教育協会のサイトをご覧ください)

つまりイエナプランとは、産業発展のために予め決められたことを記憶することにフォーカスが当たっているのではなく、自分自身をよく知り、他の人の良さを知り、他の人たちに貢献する市民を育成することを狙った教育なのです。

本作品は時々上映会があるようですが、気になる方はまずこちらのダイジェスト版映像をご覧ください!

また、本作品を含め、長年イエナプラン教育の日本への啓蒙活動を行われているリヒテルズ直子氏の著作も多数ありますので、気になる方は目を通されてください。参考までに、代表的な作品を二冊ご紹介します。

それではここからは、具体的にイエナプラン校の先生たちや、イエナプランの教員指導を行われている方々が、イエナプランについてどう捉えられているかを紹介します。イエナプランはオランダで普及しているとはいえ、まだ全体の3%にしか浸透していません。インタビューを通じて、先生方がいかに子供達と真剣に向き合い、「幸せな大人を育てる」ことにご尽力されてるかがひしひしと伝わってきました。

日本でも長野県佐久穂町でイエナプランの小学校を開設するプロジェクトが始まりました。自分がどのような良いところがあるかを知り、多様な価値観や存在を認めながら主体的に社会づくりに貢献できる大人が、このような新しい学校から巣立っていく日が来るのが楽しみですね。

■ 映像での先生方のインタビューから、印象に残っている言葉の数々

1)イエナプランで大切にしていること

・教えるプロセスから学びのプロセスへと移し替えていく必要がある。

・子供の力を信じる。尊厳を持つ。

・子供の背負う問題も、大人も一緒に背負う。それが子供たちに希望を生む。

2)イエナプランの教育の特徴:すべての学校は20の原則に則って運営をしている(図1を参照)

・リビングルームとしての教室で、異年齢(2−3学年)が根幹グループを作って 学ぶ(異学年が共に学ぶことで、同学年のみの過度の競争や優劣思考を防ぐ役割がある)。

・インクルージョン教育 - 障害児も共に学ぶことで、障害が友情の壁となることを防いでいる。

・真正性(オーセンティシティ):できるだけ本物、実物から学ぶ。社会と接点 を持つ。先生は万能でないことを認め、子供と共に学ぶ姿勢をみせ、子供たちの学ぶ姿勢を育む。

・性別や才能、年齢、異文化に関わらず、子供たち一人一人の尊厳が認められ、サポートされる。

・対話、仕事、遊び、催しをリズミカルに織り交ぜる。教科ごとの時間割はない。

・子供たちのリズムに合わせる(必ず30分の朝ミーティングをやるわけではない)

・先生間の対話による学校のカリキュラム策定。

3)イエナプラン教育の本質とは

・子供との関わり方。子供たちが自然の形で学ぶことを尊重する。

・人生を自律的に生きていけるように、楽しみを持つように、未来に楽観的に関わ れるように導く。

・大きな課題を解決できる人材に。

・幸福な大人を育てるための教育。

▶子供たちに将来への希望を与え続ける。幸福な人の方が、いろんなことを知っていることより大切。

4)イエナプラン教育の良さとは

・個人とグループのバランスがいい。 (対モンテッソーリ教育は、個人のワークが多いというイメージでの対比で話されている)     

▶サークル対話:皆同等の価値を持っているということが分かる。教員も子供も同等。     

▶自分の考えを主張しなくてはいけない。

・ただ、イエナプランだけが良いわけでなく、モンテッソーリの教員がクラスを巡回するやり方はとても良い。

・オルタナティブ教育が最も優れているという書籍がある。ペーターペーターセンの概念が最善と言っているが、筆者はモンテッソーリの先生。

・イエナプランの良いところは、コンセプトのバランスの良さ。バランスと進歩的な部分が良い。 ・20の原則(※シートを参照)を見ると分かる。 =>独善的にならないための指針が示されている。

・スース・フロイデンタール(※オランダに初めてイエナプランを紹介した女性) :解釈可能な目標モデル

・どの学校も他の学校と全く同じということはない。そこはモンテッソーリとの決定的な違いでもある。イエナプラン校は目標モデルにそれぞれの学校が取り組む。受容可能で、新しい発想を促す。

・ビジョンについてたくさん話す。人間や社会がどうあるべきかを語る。言葉に表していることが多い。

・お互いの良さを知る(実際の生活では減っている)。現代社会は自分自身で考えることが増えている。博愛、互助の精神が減ってきている。お互いが一緒に生きる社会が必要。

・生きた学び。本に書かれた死んだ学びではない。 (例:歯医者に行く、お店に行く、動物を連れてくる、など)

・学習を他者と一緒にやるということが大切。

・ペーターセンも言っているが、学校で子供たちとお互いの関係を作ることを学ぶ。人間と人間の関係。

・他の人と一緒に何かを生み出し、生きることを学ぶ。

・学習は、他の人との相互作用が大切。他の子供たちとの対話が大切。

・共同体としてお互いを高め合うことを求め、お互いの関係性や関わり方に関して探求できる。学校はそれを練習できる場所。

・人間関係。皆で一緒になって関係を作っていこうというスタンスが大切。イエナプラン教育は情熱を燃やす火で、子供たちが自然に学べる姿を探求する。

5)イエナプラン教育が目指す人間像

・私は誰で、何が得意で、何が苦手か。どこに行こうとしているのか。人間として好奇心を持てる人が理想。

・幸福であり、自分の人生をコントロールできることも大切。自分にふさわしい道を歩める。その一方、他者との協働に積極的に参加できることが大切。

・幸福で能動的な市民。デモクラシーを大切にする人を育てることも大切。

・自分の考えを提示し、自分自身とコンタクトを取り続ける人間。

・全人格的に育っていることが大切。

・世界の市民。

・イニシアチブを取ることを学ぶ。率先して何かをする。発表し、責任を持つことも学ぶ。事実を復唱することより大切。第二次世界大戦がいつ起きたことではなく、本質を問う力を養う。

・人と違うことを認め、自立して行動する。

6)画一授業の問題点

・子供たちには共通点があるように見えるが、かなり異なる。異なる学びのスタイルを持っている。テスト勉強を夜したい人と朝したい人。自分で勉強したい人、友達と復習したい人。静かじゃないとダメな人など、勉強のやり方ひとつでも違う。何もかも知っている教員なんていないのに、そういった教員に教えられるのが伝統的なやり方。こういうやり方はほとんどうまくいかない。

・学習が、子供一人で学ぶもの、仲間から学ぶものではないというのも古典的な授業の良くない部分。先生が考えてきたことを聴くやり方は、生徒が怠ける。

・画一一斉授業では子供は怠けてしまう。できることできないことの差は広がるだけ。手を挙げるスタイルもいけない。テストも良くないところを直してやろうということ。

・自分で計画し、創造し、アクションを起こすことが大切。

・子供を信頼すれば、もっと子供がアクションを取れるようになる。

・ジョン・ハッティ(※ニュージーランドの教育研究者。「可視化された学習」の著者)は良い教員の特性をリストにあげている。マイケル・フラン(※30年以上にわたり、学校間・地域間を有機的に関係づける学校経営を実現し、教師のモラールを最大化する研究を究めてきた世界的権威。トロント大学オンタリオ教育研究所名誉教授、カナダ勲章受章者)は、子供に良いフィードバックを与えることをトップ5にしている。インストラクションはずっと下。良い教員は良いフィードバックを与えられる人。どんなフィードバックを、いつ与えるか。実際にはほとんど起きていないのが現状。

7)イエナプランの教員として大切なこと

批判的思考を持ち、学び続ける。時には知らないと言える

・どれほど本来の自分自身であるべきか。自分自身でなく、良い振る舞いを演じようとしても、子供たちは見抜いてしまう。教員だけが全部知っていると感じさせない。問いを持ち続ける。

・先生が好奇心旺盛であること。新しい可能性と責任を持つことを学んでいる。

・どうすれば批判的でいられ続けるのか。

・何かを学ぶ =>どうやったら学べるだろう? と子供に問いかける。教員が引くことで、子供たちにステージが与えられる。

子供に任せることができる

・生徒たちを放すことができなくてはいけない。全てを説明し、一日中何かを伝える必要はない。たくさんのことを自分でできることを学ばせる。

・教員が上に立っている人、という考えはやめなくてはいけない。

安心でき見守られていると感じる環境の構築

・一人一人の子供を学校全体で見ていることを伝える。お互いに関心を持ち合うことはとても大切である。それが信頼の出発点。できるよ、当てにしているよ、と言ってあげる。そうすると、子供は新しいステップを踏んでみようと思える。

子供たちの幸福のために適切な計画を考える

・一緒に振り返る。

・一体何を子供たちのためにやりたいのかを掘り下げて考える。生き生きとしている姿を見せて、子供たちに意義のある姿を見せる。

・過度の放任はいけない。教員は決定をする人。自分のためではなく子供たちのためになることを考えて決める。

・実践をどうするのかが難しい。子供たちの幸福のために働くのがイエナプランの教員の目標。

子供たちとの関わりで大切にしていること

・楽しいことを子供たちから引き出す。子供たちと楽しむ。

・分かる振りをするのではなく、常に知らないことがあると思い、学び続けている。

・先生も本を読んで学ぶ。そういったことを見せることで、子供たちにロールモデルとして振舞えることが大切。

8)イエナプランの教育の教員養成

・イエナプラン校はオランダに200あるが、各学校の裁量権が多い。

・みんな4年の教員免許にプラスアルファして、イエナプランの教員資格を2年の研修で取得する。

▶実習の多い教員養成

▶現職研修 - 2年間の研修。イエナプランの方式で学ぶ

▶自主研修

▶研究集会 ・イエナプランの教員育成会社(JAS)がある。 =>知識の獲得と、人間的成長を兼ねる実践的教育機関。

・研修で大切にしていること:教員が、子供と同じ体験をすることが大切。 =>例えばグループごとに、研修生がいろいろな種類の枝をじっくり観察する体験をする。

・なんでもないことを特別なことにする。問題に取り組み、そこから道筋をたてる。その過程を踏んで、5日目に発表する。

9)イエナプランを実施する上で感じている社会との課題

・法律的な枠組みが問題。取り組んでいるが、なかなか難しい。

・今の国家は、経済がうまくいかないと、算数の成績を上げようとする。教員と子供に余裕があるのがイエナプランの良いところ。口出しをされるのは困るし、学校や教員間で比べられるのは困る。競馬のように比べられると、子供のユニークなところが削がれていく。

・外からの圧力が強くなると、人は何かやろうという意欲がなくなる。あえてやろうとしなくなる。全てが同調的になり、イノベーションが起きなくなる。今この自由がどんどんなくなってきているので、それにクリエイティブに対抗している。

・教育は社会革新のカギ。より良い社会へのカギ。学校は社会で起きていることを使うべき。ものごとをどう変えていくかを学ぶ場なのである。

図1: イエナプラン教育20の原則