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教えない学びを通じたリアルアクティブラーニング:ワールドピース ゲーム が子供達を大きく成長させる秘訣は?

4層のタワー(宇宙、空、陸&海、地下)を囲む、ジョン・ハンター氏と参加者の子供達

世界平和を実現するという壮大なシミュレーションゲームを楽しむ中で、お子様の共感力やチームワーク、考える力、世界情勢への関心などが驚くレベルで喚起される体験となるWorld Peace Game (ワールドピースゲーム:以下 WPG)。政情や世界の秩序が大きく変わりつつある今、日本の小中学生に是非体験して欲しいプログラムの一つです。

WPGは、1978年当時小学校の教員であったジョン・ハンター氏が、子供達が楽しみながら平和について学ぶ方法はないかと考え原型となるプログラムを発案。長い年月をかけて改良を重ね、現在の15-20時間かけて解決するリアルシミュレーションゲームの形となりました。日本では、2016年3月より、谷口真里佳さんが主宰されるワールドピースゲーム・プロジェクトにより開催されています。

ワールドピースゲーム・プロジェクト代表の谷口真里佳氏

最初話を聞いたときは、頭に具体的なイメージを湧かせる事が出来なかったのですが、謎を解きたいという気持ちで、8月6日にジョン・ハンター先生の来日講演会に参加しました。そこで受講生(小中学生)の体験談を聞き、「なんだこのすごいゲームは!見学に行ってより詳しく理解したい!」と思い、翌週に渋谷教育学園渋谷中学校で開催されていたWPGを数時間見学させて頂きました。

全日程に参加したわけではないので全容を分かっているとは言えないのですが、何度かお話を伺い数時間見学をした体験を元に、このゲームの凄さと、今の時代に子供達がこのようなシミュレーションゲームをプレイする意義についてご紹介します。また子供達の変容については、教師研修として全日程に参加された、学校法人堀井学園 総合企画室 室長 堀井章子先生にもコメントを頂きました。

ゲームの参加対象となる子供の年齢

テーマ的に小学生には難しすぎるのではと思っていたのですが、WPGは小学生高学年から参加が可能で、実際小学生はとてもクリエイティブに課題の解決を進められるそうです。大人でもプレイは勿論可能なのですが、子供達の課題の本質を捉えて解決出来る力は素晴らしく、過去40年間で解決に至らなかったゲームは無いそうです。

ゲームのプレイの仕方

出典:World Peace Game パンフレットより抜粋

ワールドピースゲーム財団公認のファシリテーターが進行を行い、25-35名の子供達が国土面積や資産などが異なる下層の4カ国と国際機関、武器商人などのチームに分かれます。勝利の条件は、「制限時間内に提示される全ての課題を解決し、全ての国の資産を増加させること」という世界全体を最適化する力が問われます。

初日に各国の現状が説明され、5日間のプログラムの場合、最初の2日間で、ゲーム上での世界情勢の理解と解決する課題を踏まえ、各チームで作戦を考えます。私が見学にいった3日目では、各チームが相談と交渉を繰り返していました。3-4日目に交渉や、話し合いで決まったことが宣言されていき、5日目でゲームは終了します。

見学でまず驚いたことは、ファシリテーターの介入が極めて少ないこと。子供達が極めて自律して交渉を続けている姿に「本当にまだ初めて3日目なの?!」と感銘を受けました。課題シートを拝見したのですが、大人がぱっとみても理解をするのに時間がかかる複雑な設定となっており、幾つかのバランスを考えながら、交渉をしなくてはいけないのだなということはわかりました。

複雑な状況の理解を視覚的に補助する役割なのが、4層のタワー。宇宙、空、地上・海面、海底の4層に分かれ、資産や施設、軍備などの駒が配備され、交渉成立の度に駒を動かして、世界情勢を知るという役割を果たしています。

積極的に交渉を続ける子供達

子供達の様子

私が見学した回は休む間もなく、非常に積極的に子供達が相談や交渉に参加していました。参加者は中学生対象で帰国子女の子供達も多めという特徴はあったのですが、言語や年齢(小学生か中学生)では回を通してあまり差はないとのことでした。主催者の谷口さんのお話では、あるお子さんは、行き帰りの電車の中でも考え続けてていたという没入度なのだったとか。この「没入感」というのはアクティブな学びのステージとしては非常に高いので、そこが子供達の大きな変化に繋がっているのかなという印象を受けました。

子供達の変容と成長

ジョン・ハンターさんの講演会にゲストとして参加していた過去の参加者の子供達は、一人一人が自己の成長と変化に気付いていたのがとても印象に残りました。自分が成長したという認知にいたるというのは、かなりの変化があった証拠。留学や長旅をすると、物事の見方が変わるという経験に少し近い感覚のようです。

参加生徒さんのコメントでは、「自分だけでなく他者の視点を考えられるようになった」「世の中のことへの関心が高まった」「受け身な立場から、能動的に行動ができるようになった」といった発言が印象的でした。

参加した生徒達の声

参加した生徒によるパネルトーク

「このゲームは革命的で、自分は、自分の意見を発信することだけでなく、人の意見を聞きながら何が良い方法なのか考えるようになった」
「WPGを体験して、今までは書いてあることをそのままこなすことしかできなかったけれど、自分で考えてどんどん広げていくということができるようになった」
「世界を見る目が変わった。これまではニュースを見て、「へーこんなことが起きているのか」とぐらいまでしか見られなかった。今、こういうことが起こって、今、世界にどういう影響があるのか、ということまで見ることができるようになった」
「学校でディスカッションをしていても、自分の意見が強くて、自分の意見を通す人だった。納得いくまで強く意見を主張していた。しかし、このゲームをやって、たくさんの考えがあって、いろんな視点から見なければならないので、相手の意見を取り入れるのが、大切だった。この体験をした後は、相手の意見を取り入れ、自分の意見をみんなに伝えて、その物事をみんなが納得するまで解決するということができるようになった」

また今回見学した5日間に参加した中学1年生男子の参加レポートでは、鋭い感性で、世界が持つ矛盾や課題解決への糸口を示唆するコメントもありました。

「世界が抱える問題も、関係者の数も膨大ですが、基本的な仕組みは似ているように感じます。自分の国の富のことだけでなく、力を合わせて全体の利益になるように解決すべき問題は山ほどあります。全体最適を目指す方法として、過去に社会主義という壮大な実験がありましたが、結局は指導者や権力者が自己の個別最適を目指してしまい、体制が崩壊しています。 このように、実際の世界の問題を全体最適を実現しながら解決するのはそんなに簡単な問題ではなさそうです。たくさんの専門家が知恵を出し合って協力しなければなりません。政治や経済の専門家だけでなく、例えば生物や、物理、芸術、文学など幅広い知恵を持つ人との協業が必要なのだと思います。加えて、世界中の叡智を集めるためには、文化や言語、宗教も異なる人との共創も大切です。」

変容のステップと育む力

具体的に「子供達がどの様なステップを通してこの様な大きな成長と変容を遂げるのか」について、教師向けの研修プログラムに参加されて子供達を5日間観察された、学校法人堀井学園、総合企画室室長の堀井章子堀井先生にお話を伺いました。

「このゲームを経験した子供達の変容には3つの観点があると考えます。1つはゲーム中の子供達の思考と行動の変容です。ジョン・ハンター氏の著書にもあるように、子供達は7つのステージ(1混乱  2失敗  3 自分を見つめ個人で考える  4 コラボレーションの発生  5 ひらめく(Click)  6 自然に動く(Flow)*  7 実践)を体験します。このステージを動かしているのがハンター氏が重んじている「エンプティースペース」という深い思考です。(*Flowはチクセントミハイ氏のフロー理論です)

出典:World Peace Game パンフレットより抜粋


 2つ目に、コンピテンシーの醸成です。このゲームに没入した子供達は、前述のステージが移行するとともに「リーダーシップ・フォロアーシップ」「傾聴力(真剣に聞かなければ、物事は動かない・考えられないという自覚)」「交渉力(交渉のために必要なこと)とゲーム理論の思考」「オーナーシップ(主体性)」「表現力、伝達力、ディベート技術」を実践の中で磨きをかけていきます。


 最後に、この一連のゲームを終えた子供達のメタ認知です。ゲームの勝利の後のリフレクションを通して、自分達にとってどこが一番難所だったのか、どの場面で自分達はその難所を超えたのか、なぜそれができたのかなどを考え、シェアしてくれます。そこに立ち会った際に、子供達はゲームでの体験と、今まで見聞きしてきた社会情勢や自身の知見を組み合わせ、「政治への関心と国民としての意思決定意識」「世界課題への意識」を持ち、自分「達」に何が必要なのかを深く理解していることがわかりました。


 ゲーム中、彼らに「なんとしてでも、みんなで解決してみせる」という意識が生まれます。子供達は、その時に必要な目的と理由を理解し、当事者意識を持って納得するレベルまで掘り下げる経験をしました。特筆すべきは、ゲームのファシリテーターは、一切その理論や考え方、学びの姿勢などを子供達に教えることないということです。ただ「GUIDE」するだけです。だからこそ、子供達自らコンピテンシーを獲得し、当事者意識が生まれるのでしょう。これは、別日程で実施された公立中学校の中学1−2年生のゲームでも同じ状況でした。」

認定研修者の数はまだ少なく、15-20時間のコミットが必要という制約がある中、日本の子供達が手軽に参加できるという状況ではまだまだ無いのですが、ワールドピース・プロジェクトでは、教員向け研修など、日本でのワールドピースゲームの普及活動に尽力されています。興味の湧いた方は、公式サイトやフェイスブックページで今後の活動状況を是非ご確認ください。来年の春休みや夏休みの過ごし方の一つに加えてみてはいかがでしょうか?

リアルシミュレーションゲームの魅力と必要性

リアルシミュレーション型の学びの活動は様々なものがあります。「模擬国連」のように、実際のイシューを元にディベートをするプログラム、そして今回の「ワールドピースゲーム」や「貿易ゲーム」、「世界がもし100人の村だったら」のように、仮想のシナリオを元にゴールに向かってゲームをプレイするというプログラムがあります。学びの狙いをどこにおくかというところで選択肢は変わってくると思いますが、どのシミュレーションゲームでも、参加者の感想を見ると、座学では無い、心に響く学びが得られていることが感じられます。繋がった世界で生きているということは、ニュースや教科書で見ていてもなかなか実感が湧きませんよね。身近で感じづらいトピックや、共感力やチームワークといった非認知スキルほど、このようなアクティブ型のプログラムによって、内発的な動機に繋げることが求められていると思います。

次回のWPGは、12月に世田谷ものづくり学校で開催されるそうです。その他最新情報は、ワールドピースゲームプロジェクトの公式サイトをご覧ください!

ジョン・ハンター氏著書:「小学4年生の世界平和」